『LIFE LINE』前編-10
「そうか。そりゃ、ちょうどいい」
一人で勝手に頷いて、一人で納得したように顔を綻ばせたご主人。
嫌な予感がした。
「圭一君は、ここのアンティークを見てどう思った?」
ガラクタ同然だと思います。
…口が裂けても、そんなことは言えない。
「スゴいですよね」
何が凄いのかよくわからなかったが、とりあえずそう答えておいた。
「そうか!スゴいか!」
僕の返事がよほど琴線に触れたのか、ご主人は僕の手をブンブン振り回しながら喜んでいる。
…この流れは、マズかった。
「興味があるんなら、僕が説明してあげようか?色々と面白い物があるんだよ」
そうやって、客である僕に勧めながらご主人の目は少年のようにキラキラと輝いている。
このままでは、とてつもなくディープな世界に引きずり込まれてしまう可能性があった。
僕は必死でご主人から目をそらすと、店の前で待っていた先生に助けを求めた。
「成瀬君…」
「せ、先生…」
眼差しを交わす。
ガッシリと握られた手からは到底逃げられない為、僕は目で訴えたのだ。
しかし…
「頑張ってね」
無表情から一転、ニコリと笑うと、あっという間に先生は煙のごとく消えてしまった。
僕は置き去りにされたままだというのに。
やっぱりこの人は、最低な人だった。
講習が終わり、いつものように居残り勉強をして帰ろうと思っていた僕に声をかけてきた奴がいた。
同じクラスの荻原真子だ。
「毎回トップだった圭一君の模試が、突然の大暴落」
「うるさいよ」
マコにかまってる暇など、今の僕には到底なかった。
先日、会ったばかりの骨董品店……通称ハニワ屋(勝手に名付けた)の店主に気に入られてしまって以来、ことあるごとに呼び出しを喰らっていたのだ。
嫌なら行かなきゃいいのだが、ハニワ屋の主人は僕が本気で考古学や昔の芸術品が大好きな若者だと思っている。
決して悪い人じゃなかった。
だが、毎日のように重たい本の山を持ち帰らせるのは勘弁してほしかった。素人が読んでも、何を書いてあるのか全く分からないのだ。
とにかく、そんな感じで僕の貴重な高3の夏は無残に過ぎている。
元凶であったはずのその人は、何くわぬ顔で淡々と授業を進めているというのに。