夏の始まり、夏の終わり(前編)-8
うっすらと降る雪は、一面を白くする。
道が占める面積が少なく、畑や田圃が多くを占めるこの町は白が白のまま、存在できる。
それほど雪深い地方ではないが、十分過ぎるほど…その純白の色で覆われる。
男は、タクシーから降りて店内へと足を運ぶ。
私はすぐに、暖かい缶のココアを男に手渡す。
この頃になると、タクシーを待たせているのが不安になるほど男と私の会話は増えていた。
とはいっても、共通の話題がある訳ではなく…
天気やニュース程度の世間話なのだが。
男はココアを飲み干し、「また来ます」と言った。
まだ落葉しない頃からだったか…男は「また」という表現を使うようになった。
それに気付いた私は、ほんの少しだけ心が明るくなったのだ。
「また…」
私もそう返す。
これが最後ではないと…また逢いたいと…
そう、思うようになっていたのかもしれない。
雪が薄っすら積もるタクシーに乗り込み、男は去っていく。
そして私は…いつになるか分からない「また…」をこの田舎町で一人、待ち続けるのだ。
そして…
更に寒さが増し、男はコートとマフラーに身を包み店に来る。
今年、最も降雪量が多くなりそうだと朝の天気予報は言っていた。