夏の始まり、夏の終わり(前編)-4
店とはいっても、海の傍の田舎町…客は地元の人間ばかり。
煙草や雑誌、駄菓子や簡単な食料品…それだけの店。
少し車を走らせれば、今はコンビニがあるが…
それでも、この店を使う老人や子どもたちは多かった。
そんな夏のある日…
子どもたちが氷菓子を買い求める横で、一人の男がそれを眺めていた。
背が高く、スーツ姿の若い男。
この町には、絶対にいない種類の人間。
私はすぐに警戒した。
子どもたちに何か危害を加えようとしているのではないか…
大袈裟かもしれないが、テレビで見る物騒な事件を思い出し私は身構えた。
しかし男は、そんな私に気付かないらしく…
子どもたちが手にする氷菓子を、目を細めて眺めている。
しばらくして、やっと男は私の視線に気付いた。
子どもたちは、店の外のベンチで氷菓子を口にしながら楽しそうにじゃれあっている。
「懐かしいな…」
男は、誰に言うでもなく、子どもたちと同じ氷菓子を手にとった。
「いくらですか?」
「あ…えっと、50円です」
「安いなあ…」
男は、財布を覗き込む。