夏の始まり、夏の終わり(前編)-3
彼を失ってから、気付いたことがある。
それは…私は、彼のことが…好きだっということ。
こんな私の傍に、彼はいてくれたのに。
浮気など…しなければよかった…
そんな、三流の男でも口にしないであろう言葉を私はその後…何年も何年も呟いた。
私は、いくつかの過去を隠したまま…生まれ育った海のある町に戻った。
父も母も、何もなかったかのように迎えてくれた。
大学を辞めたことだけしか知らない両親だったが…
もしかしたら、それなりのことは想像出来ていたのかもしれない。
何の資格も持たず、働いた経験もない私は…近所の小さな商店の店番をすることにした。
その店は、小さいころから私や級友が立ち寄り…小銭を握り締め、毎日通った店だった。
そこの店主は、私が通っていたころは50代だったが今は70近くなり、持病のリウマチが悪くなり隠居していたのだ。
その店主は、私の帰りを大変喜んでくれていた。
昔の、明るく元気な…子どもの頃の私のまま…
彼女の記憶の中には私が存在しているのだろう。
しばらく働く気がないなら、店番を頼めないか…と彼女は私の母に言った。
私は、彼女の申し出に当初は困惑した。
払われる賃金が安いからでは決してなくて…
あの純粋で幸せだったころの思い出の場所を、今の私が汚してしまいそうだと思ったからだ。
しかし…
昔、可愛がってもらった彼女の申し出を断りきれず…
結局私は、数日後から彼女の店に立つようになった。