夏の始まり、夏の終わり(前編)-14
勿論、今までだって人に謝ったことはあるが…
本当に相手を傷つけたり…嫌な思いをさせたり…
それが過度であればあるほど、本当に謝りたい気持ちをどう表現すればいいのか分からなかった。
雪が溶け始め、この町にも淡い緑の芽吹きが目立ち始める頃。
男は、再びこの町に立ち寄った。
男は、暖かいココアではなく、小さなチョコレートを買った。
それを口に放り込み、店の前の大きな桜の木を眺めている。
私は、挨拶の後の言葉が続かない。
考えた末、結局何も思いつかずに…
私は駄菓子をかき集め、彼に手渡した。
「この前は、本当にごめんなさい」
スーツ姿の男に、駄菓子を手渡しごめんなさい…など
あまりにも子ども染みていると分かっていても…
私には、これが精一杯の謝罪だった。
男は、少し黙った後笑顔で言った。
「気にしないで下さい、過去は過去ですから」
「え?」
「この先、どうするかですよ」
男の笑顔と言葉が、私はとても嬉しかった。
涙が出そうな気持ちを必死で我慢し、私は謝り続けた。