夏の始まり、夏の終わり(前編)-10
店先のシャッターを下ろし、奥の部屋で簡単な料理を作り出した時だった。
シャッターを強く叩く音がした。
誰だろう…
私は、少し心配になりながらガラス戸を開け、シャッターを上げた。
そこには…
数時間前、この店に寄った…男の姿があった。
傘はあるが、肩も足も…全身に雪がかかり、見るからに冷えているのが分かる。
「どうしたんですか!?」
私は驚き、すぐに店内に招き入れストーブの前の椅子に座らせた。
「すみません…、タクシーが全くつかまらなくて」
ただでさえ地方の小さな市の病院だ。
患者がタクシーを使えば、とたんに待ちぼうけしてしまう。
ましてや彼は仕事で来ている。
病院の待合室で夜まで過ごすわけにもいかず、結局歩いてここまで来たのだという。
男がストーブで暖をとる間にも、雪は容赦なく積もっていく。
とてもではないが、駅まで歩くなど出来はしない。
「困ったな…」
「明日も、仕事なんですか?」
「ええ、でも…この雪で足止めを食らったと言えば大丈夫です」
「ならよかった…」
「いや…でも、泊まるところがない…か」
このあたりには、ビジネスホテルどころか民宿すらない。
一般の民家に泊まらせてもらうわけにもいかないだろう。
男は本当に困ったといった様子で、携帯電話で必死に何かを検索していた。