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ウソ
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ウソ×@-1

今日は朝から忙しくて、いつもより長い残業を終えた頃には他の人はほとんどいなくなっていた。
静まり返った事務所内ではあたしの靴音がよく響く。正直夜はあまり得意ではない。嫁入り前の27歳の娘に何かあったらどうすんだ…
『♪♪♪♪』
「!?」
突然、軽快な音が鳴り出して思わず肩を竦めた。
音は数秒流れてすぐに止まる。
携帯の着メロ?
見た所誰もいないから、誰か携帯忘れていったのかな。
そう思って歩き出すと、
『♪♪♪♪』
また鳴り出した。
足を前に進めると音も近付く。そして視線の先に何かが光ってるのが見えた。
「…あ」
観葉植物の鉢の中で携帯電話が必死に自己主張してる。
落とし物か。
これ電話かけてるのは落とした本人だろうな。どうせ会社の誰かだろうし…
すぐに拾って何の気なしに通話ボタンを押した。
『やっと繋がった…』
聞こえてきたのは女の子の声。
誰だろ。
確かめようと口を開いたその時、
『あたし好きな人ができたの』
「…………」
出かかっていた声を慌てて飲み込んだ。
なんですと?
『話ってそれだけ。今まで楽しかった、ありがとう』
一方的に別れを告げて電話は切れた。
「…」
あたし、今、聞いちゃいけないものを聞いたんじゃない…?
あー、余計な親切心なんか起こすんじゃなかった!ほっといて帰れば良かった!
携帯を折り畳んで周囲をキョロキョロ伺う。
よし、聞かなかった事にしちゃおう。大体落とす方が悪いんだし、勝手に勘違いして別れ話をしたのは向こうであたしが責任を感じる必要なんか…
『ガチャッ』
「!?」
突然事務所のドアが開いた。
そこには息を切らした同僚の小松寛次がいる。小松はあたしを見るなり
「松田あぁ、俺の携帯見なかった!?」
と、泣き付いてきた。
「…携帯?」
わざとらしく聞き返しながらゆっくり手の中にあるそれを背中に隠す。
「社内で落としたらしいんだ、知らない?」
「や、見なかったけど…」
「何でないんだよ、彼女から電話かかってくるのに!」
「…へぇ」
ゴクリと生唾を飲んで握っていた携帯電話をこっそりカバンの中に滑り込ませた。
これは小松の携帯…。
という事は、さっきのは小松の彼女の声で、小松は別れ話をされるとは知らずに探してると。
うわぁぁ、どうしよう!
一足早く別れ話を聞いちゃったよ。こいつに内容を伝えるなんてそんな残酷な事できない。こんな事ならカバンに入れないで植木鉢に戻すんだった。
「松田」
「はい!?」
「暇?」
「…へ?」
「頼む!一緒に探してくれ」
げ。
小松はつむじをあたしに向けて両手を合わせた。
「ぃや、あたし…」
「見つかったら飯おごるから!」
『ぐぅ…』
口の代わりにお腹が返事をする。残業長引いてご飯がまだでした。
小松はニヤリと笑ってあたしの肩をポンポンと軽く叩いた。


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