「挑戦者」-1
「何かが空から落ちてきた…」
そうつぶやきながら、ボクはメインスタンドの階段をゆっくりと下りていった。
いや、いま地面を打っているのが何なのかはわかってるんだ。
でも今は「何か」にしておいて欲しい
...ちょうど1年ほど前
「バイクのレースに出てるんですよ。」
何気無い彼の一言
「良い機会だし1回位は生で見てみるかな」
きっかけは、そんな軽い気持ちだった。
響く爆音、目の前を過ぎていく幾つもの車輪
やっぱり、ただそれだけだった。
予選で彼の走りを見るまでは…
「今のマシンはひょっとして?!うぉー!スゲー!!」
特定の選手を追いかけながらレースを観る。
その行為は一気にボクのテンションを上げ、そして彼は見事に予選を1位通過した。
気がつけばボクは、その時の興奮をあたりかまわずメールしていた。
あまりに興奮し過ぎて、どんな文章だったのか覚えていないぐらいだ。
今まで無関心だったモータースポーツのという世界に、ほんのわずかな...
たった10分程度の時間で魅せられてしまっていたのだ。
「まさかこんなに興奮するものとは思ってなかった...」
それはやはり「ただ観る」ではなく「応援する存在が居る」と言う事が大きいのだろう。
予選の後、ボクは決勝で可能な限り多くのポジションから彼の走りを見届けるため
サーキットの中を走り回った。
そうしてるあいだに、決勝開始のアナウンスが流れる。
スタート直前、選手紹介のアナウンスが流れる中、彼はバイクにまたがり両手を
握りしめ祈りをささげていた
勝利をか、それとも無事にレースを完走する事を祈っていたのか…
そしてスタートを報せるシグナルがグリーンに点灯する
常に命の危険がつきまとうレースのさなか
彼はヘルメットのシールド越しに何を見ているのだろうか?
表彰台の一番高いところからは、いったい何が見えるのだろうか?
それは彼しか知りえない
その彼はなんども頂点に輝きながら、いまだに挑戦者として走り続けている。
そして今日もまた、表彰台の一番高いところから、仲間たちへ色んな思いをこめた
勝利の美酒をふりまくのだ。
END