還らざる日々〜last〜-9
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カーテンの隙間から差し込む朝日に目覚めた一生。
〈ハッ〉としてベッドから飛び起きて時計を見た。午前9時。
「いかん!完全に遅刻だ」
部屋のドアノブに手を掛けた途端、自分が会社を辞めたのを思い出した。
ゆっくりと後ずさりしてベッドに腰掛ける。1週間になるが、未だリズムはそのままだった。
自室から出ると人の気配がしない。台所のテーブルには〈お友達と山菜取りに行きます〉と書かれたメモ用紙が置いてあった。
「相変わらず元気なオバサンだ…」
テーブルの上や冷蔵庫の中を探したが、朝食の用意はしていない。
仕方なく、有り合わせの材料で朝食を作った。
かなり遅い朝食を食べながら、夕方の事を考える。
聡美と会えるのだ。一生は、何故か緊張している自分に気づいた。たかが1週間ぶりなのに。
食事を終え、後片づけをすませてシャワーを浴びた。
風呂から上がると時刻は12時過ぎ。そろそろ聡美が列車でこちらへ向かう頃だ。
新しい部屋着に着替え、テレビでも眺めて時間を潰そうとリビングに向かった。
ちょうどプロ野球の開幕戦を中継されていた。昔、野球をやっていた彼にとって、うってつけだった。
中継は試合途中で終わった。時刻は午後3時。
到着まで、まだ2時間以上ある。チャンネルを替えてみたが、ろくな番組が無い。
(…仕方ない。駅でぶらぶらして時間を潰すか)
彼は服を着替えてバイクで出掛けて行った。
けたたましい音と共に、6番ホームに青い車体の列車が入って来た。
一生は階段近くで下車する人々に目を凝らしていた。
人の河が彼のそばを流れていく。そして、ひとりの女性が列車から降り立った。
(…聡美だ!)
思わず顔が紅潮する。
一生は流れに逆らい、人をかきわけながら彼女の方へと向かった。
聡美は荷物が重いようで、足元がおぼつかない。後から追い越す人々とぶつかり転びそうになる。
その度に立ち止まり、何とか階段へと向かおうとしていた。
だが、またぶつかり、今度こそ本当に転ぶと思った瞬間、誰かが身体を支えてくれた。
聡美はゆっくりと顔を上げる。前には、一生が白い歯を見せていた。
「…一生…」
「おかえり!」
2人が1週間ぶりに再会した瞬間だった。