還らざる日々〜last〜-7
「明後日、こっちに寄るんだろ。一緒にメシでもどうだ?」
「………」
「オマエ門出だ。お祝いして…別れよう」
「…分かった」
「何時ごろ着くんだ?」
「夕方5時20分の〇多着…」
「分かった。迎えに行くよ」
「でも…そんな…」
一生は聡美が会社の事を心配していると思った。
「心配するな。有休使うから」
「…分かったわ。じゃあ、明後日に…」
「おやすみ…」
聡美は受話器を戻した。彼女が何度も口ごもったのは、自分の決心が揺らぎそうになったからだ。
───
聡美の父親が運転するクルマが〇府駅に着いたのは、午前11時少し前だった。
駅前の駐車場にクルマを入れる。特急列車の発車時刻まで大分時間がある。
そこで、昼食を摂る事にした。
家族全員での外食は、しばらく出来ないと思ったからだ。
父親は出来れば豪華なモノをと考えていたが、それほど時間に余裕もなく、駅前では大したモノがあるはずも無いので最寄りの中華料理屋に入った。
4人でコース料理を食べる。賑やかしく、楽しい食事だった。
《4番ホーム、〇〇往き特急〇輪が到着します》
構内アナウンスと共に、〈ピリリリリリッ〉と、けたたましい音がホームに鳴り響く。
青い車体はゆっくりとホームに入ると、徐々に速度を落としながらやがて停まった。
8両編成の真ん中辺りに聡美は立っている。
大きなボストン・バックを持って家族の方を見た。それぞれが彼女に声を掛ける。
「身体に気をつけてな…」
「電話するのよ。元気でね」
「姉ちゃん、頑張れよ!そのうち遊びに行くからな」
聡美は目に涙を溜めてウンウンと頷くだけだった。
「…私…私…」
胸いっぱいで何も喋れない。
「さ、時間よ。行きなさい」
聡美は家族に深々と頭を下げる。そして、その顔を上げた。
頬は涙で濡れていた。
「いってきます…」
そう言って列車に乗り込んだ。
聡美が席に着いて窓の外を見た時、ゆっくりとドアが閉まった。
列車は彼女の夢と希望を乗せて、北に向った。