還らざる日々〜last〜-6
「オレはそんなモン知らねーぞ!」
「おそらく課長と数名の仕業でしょう。それより、ご迷惑をお掛けしたまま辞めるのを申し訳なく思います…」
篠崎の手が一生の肩を叩いた。
「また、何処かで会えるさ。会社がオマエを辞めさせた事を後悔するくらいになれよ。オマエならやれるさ」
「先輩もお元気で…」
一生はそう言うと頭を下げた。
「アンタどうするの!私に内緒で勝手に会社辞めて」
自宅に戻り、母親に会社を辞めた事を伝えると、母親は過剰な反応を見せた。
「来週まで休んだら、しばらくバイトでもして次を探すよ。
とりあえず退職金が入るから。それで何とかするさ」
「アンタつい最近まで一生懸命やってたじゃない。それが何故?」
母親は心配気な表情を見せる。しかし、一生の方はサバサバとした表情だ。
「もう終わった事だ…」
夜。風呂から上がり、一生は缶ビールと電話の子機を持って自室に入る。
ベッドに腰掛けるとビールを開けて一気に傾けた。
半分ほど飲んだところでビールをテーブルに置き、〈フーッ〉と息を吐き出して、ゆっくりと首を振る。身心共に疲れていた。
何気に壁を見つめながら、ここひと月の出来事を思い出す。
聡美の北海道行き、会社を辞めさせられた事。
短い間に様々な出来事があった。だが、それも、あと少しで終わる。
一生は子機から電話を掛けた。
コール音が耳に鳴り響く。〈カチャ〉という接続音と共に、女性の声が聞こえた。どうやら聡美の母親のようだ。
「夜分にすいません。浅井と申しますが、聡美さんを…」
「カズオ!」
「なんだ聡美だったのか…声が違うから、お母さんかと思ったよ」
「少し喉が痛くて…明後日には出発なのに。風邪かなぁ…」
「オイオイ、社会人は体調管理も大切だぞ。明日、病院に行ってこい」
「うん…分かった」
だが、2人共その後の話題が出てこない。言いたい事はたくさん有るはずなのに。
沈黙を破ったのは一生だった。