還らざる日々〜last〜-5
片づけるよう頼んでおいた自分の部屋も物置のままで、結局、弟の部屋に布団を敷いて寝る羽目になった。
元はといえば、この弟が要らないモノを彼女の部屋に置いたおかげでなのだが。
弟は短大を卒業したばかりで、地元の地熱発電所に勤める予定だ。
姉と違って楽天的なな性格だ。
まだ付き合ってる女性もいないようで、元来の〈姉ちゃんっ子〉だった事もあり、彼女に〇〇での暮らしぶりや専門学校での出来事などをしつこく聞きたがる。
「雅樹ィ、私、眠いんだけど…」
「そんなに言うなよ。北海道に行っちゃったら、またしばらく会えないじゃないか。
だから、色々聞かせてよ…」
聡美は、仕方なく付き合ってやろうと話だした。
〇〇の喧騒感、ちょっと離れた〇坂のお洒落な感じ。大〇辺りの閑散とした雰囲気。〇〇のひしめくアーケード街。
専門学校での授業や実習風景。バイト先である市場での出来事などを話して聞かせた。
「色々あったけど、楽しかったなぁ…」
頬づえをついて話していた聡美。ふと見ると、弟の反応が無い。彼女は弟の方を見た。いつの間にか眠っていた。
それを見た聡美は一瞬ムッとしたが、弟の寝顔を見て柔和な表情に戻ると、はだけた弟の毛布を直してやり部屋の明かりを落とすのだった。
───
小門と話し合った翌日、一生は依願退職の辞表を提出した。
辞表はすぐに受理された。
その後、後輩に仕事の引き継ぎを行うと、自分の机の中身をダンボール箱に詰めて整理を始める。
同じ部署仲間は、一生に声を掛ける者もなく業務を進めていた。
〈自業自得だ〉そう言いきかせながら、彼は机の中のモノを取り出してダンボール箱へと移す。
すると、奥の席から先輩が立ち上がり一生の側を通り抜けながら、ダンボール箱の中に畳んだ紙切れを投げ入れ、事務所の外へと消えた。
一生は紙切れを広げる。すると〈トイレに来い〉と、一文だけ書かれていた。
彼は立ち上がると、事務所を後にした。
トイレに行くと、先輩の篠崎が待っていた。彼の事は仕事以外はよく知らないが、実直な印象を持っていた。
「何で辞めるんだ?オレ達に迷惑掛けた責任からか」
まさに単刀直入だ。
一生は苦笑しながら、
「いえ。課長から辞めるよう頼まれました。ウチの部署仲間の嘆願書まで見せられてね」
篠崎の顔色がみるみる赤くなる。