還らざる日々〜last〜-4
「私は君に忠告したはずだよ。〈理由を教えて欲しい〉と。そうすれば、いかようにも連中を抑えられた。
こう言っては何だが、彼らは小市民的なんだ。君のような若輩が新しいプランを任せられるのを歓迎しない。
隙あらば君の足を引っぱろうと躍起になっていた。そして、この3週間の出来事だ。
重役達も君に任せた機器が、計画より遅れている事に落胆している…」
一生にとっては〈信じがたい事実〉だった。
「もし、私がいやだと言ったら?」
小門はタバコをくわえて火をつけた。一生にも勧める。彼もタバコを吸いだした。
煙を吐き、ひと言々を噛み含めるように一生に伝える。
「君は、今の部署と任せられている機器の運用役を外され、暇職に追いやられる。
そして、難クセをつけられて辞めさせられるだろう…」
「難クセ?」
「例えば会社の備品…ボールペンなんかを持ち帰って自宅で使えば横領なんだよ。
そういう理由をつけて君を解雇するだろう…」
小門はそう言いながら、落ち着かないのかスパスパとタバコを吸うと、強く灰皿に押しつけた。
「君が辞表を出せば、満額の退職金プラスαを僕が経理に掛け合ってやる。
浅井君、頼む!辞めてくれ」
小門はそう言うと机に頭を押しつけた。
一生は考えた。おそらくこれは、小門と部署の先輩が考えた事だろうと。
彼と会議室で話し合ってからわずか7日間で、これだけ用意周到に準備は出来ない。
むしろ小門が考えたシナリオだろう。そう思うと無性に腹が立った。
だが、そうは言っても〈やりにくくなる〉のは事実だった。
「分かりました。辞表は明日、課長に提出します」
それを聞いた小門は安堵の表情を浮かべ、再び頭を机につけた。
「すまない!私に力が無いばかりに…」
こうして一生は職を失った。
だが、気持ちは晴れやかだった。これで誰に気がねする事なく、聡美の見送りが出来るのだから。
───
聡美が大分の実家に帰ってから3日が過ぎた。
彼女は父親、母親、それに、ふたつ違いの弟の4人家族だ。
彼女が高校の頃までは祖母がいて、5人家族だった。
その祖母が亡くなった事が、彼女が看護師を目指すきっかけとなった。
帰った最初の2日間は2年間離れていた事もあり、話題に事欠かないほど話が弾んだ。
しかし、さすがに3日目ともなるとネタ切れとなったのか、賑やかしい雰囲気は無くなった。
また、故郷の友人もチラホラ訪ねて来たが、元々友達が多くない上に、彼女同様、親元を離れてるのがほとんどなので、これも3日目には途絶えてしまった。
よって、聡美は3日目にして退屈し切っていた。