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過ぎ去りし日々
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還らざる日々〜last〜-3

「お母さんの言葉とも思えません。4年前、彼女は人生の夢を見つけました。
 大好きだった祖母を亡くした事によって。
 そして、先ほども言ったように、新たなステップを踏もうとしています。
 その彼女に私のエゴイズムを押しつけるわけにはいきません。
 もし、仮に私がそう言って彼女が残ったら、彼女も私も一生後悔する事になる。
 こういう場合、〈いってこい〉と送り出すのが1番だと思ったんです」

 今まで母親に寄り掛かり黙って聞いていた聡美が、よろけるように一生にすがり付いた。

 彼はただ、彼女の身体に手をまわし、支えるだけだった。

 自分の手を離れた娘を目のあたりにした母親は、小さくため息を漏らした。

「聡美が何故、アナタを選らんだのか分かる気がするわ…」

 母親の言葉に、一生はゆっくりと首を振る。

「いえ、私が先に選らんだんです。彼女となら、生涯を共に出来ると……」

 その表情は誇らし気だった。



 卒業式の夕方、聡美は母親と共に故郷へと帰って行った。
 1週間後には再び1日だけこちらに戻って泊まり、翌朝には北海道へと旅立つ。

 その時こそ本当の別れだ。




───


 一生は休んだ翌日、出社すると小門に会議室に来るよう呼ばれた。
 彼にとってもちょうど良かった。ここ3週間あまり、迷惑を掛けた事を詫び、これからはこんな事は無いと伝えたかった。

 一生は〈この場を借りて恐縮ですが、まず私の話を聞いて下さい〉と、その旨を小門に伝えた。

 だが、小門の話は一生にとっては信じがたい内容だった。

「浅井君。辞表を書いてくれないか?」

「エッ?」

 一生は最初、小門が何を言っているのか理解出来ずにポカンとしていた。

 が、すぐに疑問へと変わった。

「…辞表って、どういう理由ですか?」

 小門は1枚の紙切れを彼の前に差し出した。一生は不思議に思いながらもそれを取って見た。途端に彼は驚愕の表情を浮かべた。

 その紙は、一生を辞めさせてほしいとする嘆願書だった。見れば、署名の欄に同じ部署の先輩や仲間の名前が連なっていた。

「課長、これは…」

 小門の一生を見る目は哀しみに満ちていた。


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