還らざる日々〜last〜-2
「カズオーッ!!」
先に見つけた聡美が、クシャクシャの笑顔でこっちに手を振り駆け寄って来る。一生は申しわけ程度に右手を軽く上げるだけだ。
「見て!卒業証書。やっとこさ終わったよ!」
聡美は卒業証書を両手で広げて一生に見せる。彼は笑顔でそれを見た。
「おめでとう。よく頑張ったな」
遅れて来た母親が、怪訝そうな顔で一生を見つめる。
一方の一生は、母親の存在に気づくと深々と頭を下げた。
「聡美さんのお母さんですね。初めまして。
私、聡美さんとお付き合いさせてもらってます浅井と申します。卒業おめでとうございます」
そう言って母親の顔を見た。なるほど、目鼻立ちが似ている。
母親は作り笑顔で一生の挨拶に答えた。
「ありがとうございます。浅井さん、と、仰いましたね…聡美とはどのような?」
「聡美さんとは、共通の友達を通じて一昨年の6月に知り合いました。以来、良き理解者として付き合ってきました」
彼の言葉に母親は反応する。
「〈付き合ってきました〉と言われましたが?」
母親ひと言に、一生は視線を外して大きく息に吸うとゆっくりと吐き出す。
そして、再び母親の目を見た。
「…聡美さんとは〈これきり〉だって事です」
それは聡美にとって覚悟していた言葉だった。
うなだれ、母親にすがりつく聡美。彼女の頭をそっと撫でながら、母親は一生から視線を逸さずに問いかける。
「どういう意味でしょうか?」
「彼女は、看護師になって北海道へと旅立ちます。私にもココで守るべきモノが彼女以外に有ります。だから〈これきり〉なんです」
一生の母親に対する受け答えは至って冷静だった。
だが、その声色は、やや震えていた。彼はそれを母親や聡美に悟られまいと必死だった。
納得がいかない母親は、更に一生に詰め寄る。
「浅井さん。もう少し具体的に仰って下さい!」
荒げた声に周りの目が集まる。だが、それもわずかの間で、すぐに視線は散った。
一生は、やや俯き加減で語り始める。
「…私は子供の頃に父親を亡くしました。それからは、私が高校を卒業するまで、母親が家族を支えてくれました。
だが、今は私が働ける。私が支えなければならない。
だから、聡美さんとは一緒に居られないのです…」
静かに、だが確かな口調で一生は話かけた。彼の言葉を聞いた母親は、それでも問いかけた。
「だったら!何故、聡美の北海道行きを止めてくれなかったの?」
一生は厳しい顔を母親に向けた。