還らざる日々〜last〜-13
「私ね、ずっと思ってたの。一生は愛してくれている。私も一生が大好き。
だけど、自分はアナタに向いてないんじゃないかって…」
「オマエ何を…」
反論しようとする一生を、聡美は遮った。
「だから〈自立した女性〉になりたくて、一生のもとを離れるの。
昨日まではね。決心が揺らいでた。一緒に居たいって…でも、昨日アナタと久しぶりに会って愛されて…決心した。
一生との事を〈心の糧〉して頑張ってくる!だから握手して」
一生は右手をそっと出した。聡美はその手を引っ張るように両手で握り返す。
一生は笑顔を作ろうとするが、上手く出来ない。一方の聡美は満面の笑顔を見せた。
「今までの私は卒業する!元気に行ってくるわ」
一生もグリップに力を込めた。
「もし、オマエがこっちに帰ってくる事になって…その時、お互い独りだったら…また会ってくれるか?」
聡美はいたずらっぽい表情を浮かべる。
「それは一生次第ね。ちゃんと身の周りを整理してじゃないと…私、二股はイヤだもん」
一生の形相がみるみる変わった。
「オマエ、それって…」
「一生、嘘がヘタだから…顔に出ちゃうのよ」
搭乗のアナウンスが入ってきた。
抱きしめ合い深い呼吸を続ける2人。それは、互いの匂いを心に焼き付けているようだった。
聡美は一生の唇に自分の唇を重ねる。周りのサラリーマンらしき者達の、冷ややかな視線が2人に集った。
彼女が離れた。そして、荷物を持った。
一生をジッと見つめる。
「行ってきます!」
そう言うと、振り返る事なく搭乗カウンターを通り過ぎていった。
一生はその場で見送った。聡美はゲートの通路をゆっくりと進んで行き、やがて見えなくなった。
一生はタバコを出して火を着けた。そして心の中で呟く。
(オマエ、知らなかったんやな。オマエ、メッチャ輝いてたんやど。オレはそんなオマエに惚れとったんや…)
聡美を乗せたジェット機は、彼方へと飛び去った。