「とある男女の話」-1
彼女は言った。
「・・・いい天気ね」
「そうだね」
「こんな日は外で絵を描きたかったなぁ」
「じゃあ、早く元気にならないとね」
「・・・ううん。もう外には出れない」
「何言ってんだよ。君がそんなんじゃ、治るものも治らないよ」
「分かるのよ。自分のことは自分が一番・・・ね」
「・・・」
「最後にあなたの絵を描きたいな」
「えっ?」
「あなたの笑顔を焼き付けてから死にたいの」
「そんな・・・」
「だからね、そんな泣きそうな顔しないで。私の大好きな笑顔を見せて」
「・・・わかった」
僕は彼女と過ごした今までの日々を思い出して、心からの笑顔を浮かべた。
絵が完成した次の日に彼女はこの世を去った。
彼女は生まれつき体が弱かった。
しかし彼女といると優しい気持ちになれた。
楽しい気分になれた。
つらい時間なんてなかった。
たとえ彼女の目が見えなくても。
僕は彼女が描いた僕の絵をずっと見つめていた。
見ていて恥ずかしくなるような笑顔を浮かべた僕の絵を。