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過ぎ去りし日々
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還らざる日々V-9

───


 午後5時。一生は自分のデスクを整理しだした。
 先輩達や課長の小門はチラリと彼を見たが、すぐにパソコン画面に視線を移す。

 このところ、3日と置かずに一生は定時で上がっている。

 最初は、先輩達も何か大事な用事があるのだろうと容認していたが、それが度重なれば、自分達に業務のしわ寄せがくる事に困っていた。

 一生が小門の机に近寄る。

「課長、これで失礼します」

 小門はゆっくりとパソコン画面から視線を外し、一生の顔を見る。

「ちょっと良いかな浅田君。手間は取らせないから…」

 彼は席を立つと、2階の会議室に一生を連れて行った。
 小門が何を言いたいのか分かっていた一生は素直に従った。
 先輩達も心配気に2人を見つめていた。

 小門と一生はテーブルを挟み、向き合うように座った。

「浅田君。理由を教えてくれんか?」

「……」

「ここ2週間、君はいつも仕事を切上げて帰ってる…」

 それまで俯いていた一生が頭を上げた。

「定時に帰るのに、理由がいるんですか?」

 言い放った一生の口調は挑戦的だった。だが、小門は気にも留めずに問いかける。


「それが許される状況か、君は分かってるハズだろ?
 せっかく君に任せた機器の運用も、やっと軌道に乗りつつあるんだ。君の努力でね…」

 小門は、自身がアドバイスした後も、一生がひとり休日返上で機器の調整を続けているのを知っていたのだ。

「だが業務はそれだけじゃない。君が早く帰れば、仲間達に影響する。だから理由を聞かせて欲しいんだ」

 小門の頼みに一生は俯き、深く息を吐いた。

「来週まで待ってもらえませんか…今、言えるのは…それだけです…」

 一生は席を立つと、深々と一礼して会議室を出ていった。
 その姿を見つめる小門の目は悲し気だった。




───


 聡美とわずかな時間を過ごした一生は、自宅に帰るとすぐに電話の子機を持って自室に向かった。

「よう…久しぶりだな…」

「久しぶりじゃねぇだろ!半年以上、連絡もしねえで…」

 相手は友人である土田にだった。

「それより、オマエに頼みがあるんだ」

「オマエッ!オレに用がある時だけ……」

 一生は土田の苦言を遮る。

「その話は後にしてくれ。
 それより、今度の土曜、オマエのクルマを貸して欲しいんだが…」

「ちょっと待て。何に使うんだ?」

「理由は今は言えない。ただ、変な事に使うんじゃないから…」

土田は躊躇しながらも〈分かった〉と答える。

「…じゃあ、朝10時には取りに行くよ。その間、オレのバイクを預けとくから自由に使ってくれ」

 一生は、必要事項だけを伝えると電話を切った。


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