還らざる日々V-5
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3月を過ぎて、一生の週末はパターン化していた。
土曜日の夕方から翌、日曜日の朝までは聡美のアパートで一緒に過ごす。
それから会社に向かい、夕方までは機器のデータ取りと調整。
これ以外にも〈いつも一緒に居たい〉思いから、わずかな時間も惜しんで彼女と会っていた。
当然、そのしわ寄せは尚美にいくわけで、彼女とはここしばらく会っていない。
時折、自宅や会社に連絡して来ていたが、一生は〈忙しいから〉の一言で取り合おうともしなかった。
おかげで、尚美のフラストレーションは溜る一方だった。
「ねぇ、これ、23.0はないの?」
靴売場を訪れた年配の女性が、尚美に問い掛けてくる。
「少々お待ち下さい…」
彼女は足早に在庫置場に確認に行った。
通常、数多くの品々を限られたスペースに並べるため、サイズ違いなどは下の棚や裏の倉庫に置かれている。
キチンと整理されているので、普通は3分と待たせず客に渡せるのだが、その日はなかなか見つける事が出来ず、戻った時は5分以上経っていた。
「何してんの!いつまで待たせるつもり!」
案の定、客はカンカンだ。尚美が謝りながら商品を持って行った。しかし、気持ちが治まらないのか、しつこく文句を言っている。
この時、彼女の中で〈ある種の感情〉が芽生えた。しかし、〈いけない〉と、すぐにガマンした。
サイズ合わせをした客は、〈じゃあコレを〉と言ってレジへと向かった。
靴を箱に収めようとした時、再び客から声が掛かる。
「ところで、何割引きになるの?」
どうやら、客は購入しようとしている商品をクリアランス対象品と勘違いしているらしい。
「お客様。こちらはクリアランス対象品ではごさいませんので…」
この言葉が、再び彼女を烈火のごとく怒らせた。
「だったら何で最初から言わないの!無駄な時間を過ごさせて。
あなたのせいよ。責任とりなさいよ!」
尚美の中で、先程よりも大きな苛立ちが爆発した。
「お客様。それほどクリアランス品がお好きでしたら、当店ではなく、〇〇辺りの商店街などに行かれては如何です?」
「なんですって!!」
化粧が浮き、脂ぎった顔を醜く歪め、客は尚美の言葉に過剰に反応した。
彼女のヒステリックスな声が売場一面に響いた。
その時、副マネージャーの田嶋が駆け寄り、客に平謝りを繰り返す。
「2度と来ないわ!」
怒りの言葉を残し、客はその場から立ち去った。
田嶋は深々と頭を下げ、しばらく動かなかった。