還らざる日々V-4
夕方。学校を終えてアパートに帰り着く。これから、つらい時刻が待っている。
昨日、炊いたゴハンにレトルトカレーを掛けてレンジで温める。
これにスーパーで買った白菜のあさ漬けが夕食だ。
以前はカレーだけだったが、彼と付き合い始めた頃、それを見た一生から〈野菜を食べろ〉と注意された。
それだけでなく〈浅漬けならカレーにも合うし日持ちする〉と、買って来てくれた。
以来、〈近所の貰い物〉と言って、色々な旬の野菜を持っ来てくれたし、自分でもお金に余裕がある時は努めて買うようにしていた。
今日、夕食をカレーと決めた時、無意識のうちに、あさ漬けを買っている自分に気づいた聡美。
その日のカレーは塩っぱい味がした。
「おはようございます!」
夜10時。いつものように聡美は市場に現れた。
〈おはよう。今日も頼むよ〉と、店の人々が、威勢良く彼女に声をかける。
彼女も元気に返事を返すと、すでに仕入れてある魚が入ったケースを運びだす。
(あと10日あまりででここともお別れだ…)
聡美の脳裏をよぎった。彼女は昼間同様、それらを振り払うように身体を動かす。
それを遠目に見つめる人がいた。この店の社長だった。
彼女の就職が決まった翌日の夜、後2週間で辞めるという事を社長は聞かされた。
彼は彼女の就職を、我が子の事のように喜んだ。
(…早いモノだな…)
社長は初めて会った日の事を思い出していた。
最初見た時〈こんな華奢な娘が…多分、3日と持たねぇな〉と思った。
知人の頼みで仕方なく了解したが、無理だろうと思っていた。
しかし、それは良い意味で裏切られた。
彼女は2年間を勤め上げたのだ。しかも、戦力として。
最後の日は、皆でささやかながら送別会を開いてやりたいと社長は考えていた。
聡美がバイトを終えてアパートに帰り着くのは午前4時。
ここから手早く食事を済ませて風呂に入ると、5時から7時までは仮眠を取って8時には学校へと向かう。
市場で貰ったアジをオカズにゴハンを食べて、前もって沸かしておいた風呂に入った。深夜だからなるべく音を立てずに。
風呂を済ませてパジャマに着替えると、明かりを消して布団に横になった。
急な睡魔に襲われ、彼女はすぐに眠ってしまった。