還らざる日々V-2
───
「…あ、お母さん。私、聡美。今日、少し荷物を送ったから…うんそう。
卒業が近いからとりあえず使わない物をね。
ところで、私の部屋は?帰ったら私、北海道に行くまで使おうと…エッ!物置?ひどいじゃない!私、どこに寝るのよ。
うん、分かった。じゃあ卒業式が済んだら引越し屋さんに頼んでそっちに送るから。帰るまでによろしくね。…はい」
聡美は受話器を戻すと、部屋に置いた数々のダンボール箱に目を向けた。
彼女は、荷物をひとつ々、箱に詰めていたのだ。
単身、〇〇から出て来た時からの思い出が全ての物にあった。
最初のひと月はひどいホームシックになり、涙で枕を濡らす日々が多かった。
しかし、時は最高の治療薬である。
学校の友人、バイト先の知り合い、自治会の人達。そして、一生との出会い。
彼女は2年間で確実に、この地域に根付いた。その思い出の品々を見るにつけ記憶が甦る。
結局、昼過ぎから夜に掛けて荷物整理をしたが、自分が考えてた半分も作業が進まなかった。
聡美はダンボールを見つめ、ため息を漏らす。
「さ来週にはここを引き払うのに…これじゃ毎日こまめにやらなきゃ…」
───
一生は尚美に連れられ、近くの喫茶店に訪れた。
聞けば、そこはコーヒーよりも軽食で評判の店らしく、彼女も時々ご厄介になるらしい。
彼女のお薦めであるチキンカレーとシーザーサラダのセットを頼んだ。
「食べてみて。びっくりするで!」
一生は一口食べた。尚美が言うようにコクのあるルウだが、彼からすれば辛さやスパイスが足りないように感じられた。
「なぁ、今度はいつ来れる?」
夜道をアパートに向かいながら、尚美が話しかける。
しかし、その言葉に一生は答えない。ただ前を向いて彼女の歩調に合わせて歩いているが、心ここにあらずだ。
彼女のアパートに着くと、一生はヘルメットとグラブを着けた。
「しばらくは仕事で難しいな。今が正念場だから。来れる日は連絡するよ…」
一生はバイクのギアをロォに入れ、ゆっくりと走り出してアパートを後にした。
尚美は、バイクが見えなくなるまで一生の姿を見つめていたが、小石をひとつ拾い上げると思い切り地面に叩きつけた。
バイクはゆっくりと庭に入ると玄関前に止まった。エンジンを切り、いつもの場所にバイクを停めた。