還らざる日々V-12
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翌月曜日。
彼女は休みだった。尚美は夕方5時に彼の会社へ電話する。
それは、出張か営業でもない限り、必ず会社に要るというのが理由だった。
電話に出たのは、一生と知り合うきっかけとなるコンパを主催した広渡だった。
〈久しぶりじゃない〉と言われ、彼女は作り笑いで受け応えた。
そして、一生を呼び出してもらおうとすると、広渡は意外な事を言った。
「一生?アイツ今日は休みだよ。それよりさ。またコンパやらない?君がメンバー集めてくれたら…」
尚美は、広渡の話を遮るように問いかけた。
「浅井さん、今日は何で休んだんです?」
広渡は吐き棄てるように答える。
「知らねーよ、あんなヤツ。アイツ、ここんところ毎日5時半には帰ってるんだから…
あの時のコンパだってアイツだけだぜ!彼女いたの」
その瞬間、尚美の頭はパニックに陥った。
「…一生……彼女おるの?」
「ああ、2年前から付き合ってる専門学校生がいるんだ。
信じられねぇだろう。あんなヤツに…」
広渡の声が聞こえる受話器を戻し、放心する尚美。
(…他に女がおって…私と…)
湧きあがってくる怒り。彼女は受話器を掴み取ると、一生の自宅に電話する。
だが、やはり彼は居らず、出たのは母親だった。
「最近、何時頃、帰りはるんですか?」
母親は、息子から言われていた〈気転を利かす〉事も忘れ、素直に答えてしまった。
「そうね…10時か10時半かな」
母親への電話を切った後、尚美は明日、仕事を休むための連絡を田嶋に入れたのだった。