還らざる日々V-11
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土曜日。会社を休んだ一生は、聡美を助手席に乗せて〇〇半島を目指す。
本来、隔週休みのため出勤なのだが、半ば強引に有休を使ったのだ。
木曜日の夕方。彼は聡美を誘った。
「昼からドライブに行かないか?オマエはとなりで寝てていいから…」
「…でも、今度の土曜日は仕事って…」
心配気な声が電話口から漏れる。
「大丈夫だよ。有休使うから」
「分かった。待ってる」
土田から借りたミニ・メイフィアは海岸線沿いの道を西に進む。
右手の眼下には海が広がり、太陽の光で水面は輝いている。
道を挟んで左手は小高い丘が迫り、木々が道路にせり出していた。
「ホラッ、見えて来た…」
一生が前方を指差す。
道の下、砂浜が続く波打ち際に白い鳥居が立ち、そこから先の水面に小山のような岩が見える。
「…あれは…?」
聡美が目を凝らす。近づくにつれ、ひとつに見えた岩が徐々にズレて見える。
大小ふたつの岩が連なり、その両方に、しめ縄が渡してあった。
「ちょっと歩くぞ…」
一生は、そばの路肩にクルマを停め、聡美を連れて砂浜へと降りた。
3月半ばとは言え、浜からの冷たい風が、耳元で鳴くほど強く吹いていた。
小さく思えた鳥居は、間近で見るとかなりの大きさだった。
そこから、100メートルほど沖に岩が見える。
「…アレ、夫婦(めおと)岩って言うんだ」
「…夫婦岩…」
「大きい方を男岩、小さい方を女岩と言ってな。
夫婦が寄り添うように見えるから、そう呼ばれてるのさ」
「へぇ…素敵な呼び名だね。
それに、お互いを繋ぐように縄が張ってあって…」
「ここは遠浅で、大潮になると岩まで道が出来るんだ。
毎年、5月の大潮の日に縄を張り替えるのさ」
2人は、いつの間にか寄り添って岩を眺めていた。
「…それと夏至の日は、夫婦岩の間から朝日が昇るんだ…」
その言葉に聡美がポツリと言った。
「…それ、見たかったなぁ…」
それきり会話は消えてしまった。
沈黙を破ったのは一生だった。
「そろそろ、次に行くか?」
「…何処に?」
聡美の問いに微笑み答える。
「…夕食の買い出しだ。この先でカキを売ってるんだ。今夜は〈カキづくし〉だ」
一生は聡美の手をひき、砂浜を歩きだした。