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過ぎ去りし日々
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還らざる日々V-10

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 尚美は風呂上がりのラフな格好で、濡れた髪のしずくをタオルで拭っている。
 部屋のテーブルの前に座ると、化粧水や乳液などで肌の手入れを行う。それはまるで〈儀式〉のようだ。

 しかし、一生に言わせれば、〈それより、ちゃんとした食生活をすれば肌も綺麗になる〉と、指摘を受けたのたが。

 それが済むとマニキュアを塗って、冷蔵庫からビールを取り出す。
 乾くまでのわずかな時間、飲んで過ごす。彼女の至福の時だ。

 尚美はテレビを見ながらビールを傾ける。見ているのは若手俳優の出演する恋愛ドラマだ。
 ふと気づくと、彼女は片ヒザを立ててタバコをくわえ、片手にビールを持っている自分に気づいた。

(こんな格好で…ずっと止めてたのに…)

 先日の田嶋との事といい、自分を抑制出来ない自分が情けなかった。
 思わず涙がこぼれ落ちる。無性に寂しくなった。

(一生に会いたい。会って、先日の事を謝りたい…時刻は9時半だ。まだ電話しても失礼じゃない)

 彼女は一生の自宅に電話した。

「夜分にすいません。私、都田ですが…」

〈一生さんお願いしたいのですが〉と言う言葉は、電話に出た母親に遮られた。

「都田さん?お久しぶりねぇ。あのコ、まだ会社から帰ってないのよ」

 ある程度予想はしていた。しかし、尚美はきっかけを削がれた感がした。が、それを気づかれまいと明るく返した。

「分かりました!会社に掛けてみます」

 電話を切り、すぐに彼の会社に電話を掛ける。

 出たのは工場の人だった。彼の話では事務所はすでに閉まっており、いつ帰ったかは分からないと言う。
 ちょうど帰宅の最中なのかと、15分ほど経って再び一生の自宅に掛けようとした。
 が、また母親が出て嫌がられるのを考えると受話器を持つ手が止まった。

 尚美は電話を諦め、ベッドに潜り込んだ。


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