還らざる日々U-8
「やったらぁ!!」
叫び声と共に先輩にタックルする尚美。先輩はそのまま床に叩きつけられ、したたかに後頭部を打った。
馬乗りになり、今まさに顔面を殴ろうとした瞬間、仲間が尚美を止めた。
「アンタら離さんかい!!このガキ、キャン言わさなウチの気がすまんのじゃ!」
後ろから羽交い締めにされながらも、彼女は先輩の身体を蹴っている。
「止めろってば!もうノビてるじゃん」
見れば、最初のタックルで脳しんとうを起こして気絶していた。
怒りの行き場を無くした尚美は、
「もう、帰る!」
そう吐き棄て、5千円をテーブルに叩き付けるとフラつきながら店を出て行った。
───
「…あ〜、美味しかった!」
作った60個の餃子は、キレイに無くなった。テーブルには、ビールとチューハイの空缶が並んでいる。
「さあて、片づけてビデオを借りに行くか!」
「でも、油臭くない?」
「構わないよ。ビデオ借りに行くだけだから」
「それもそうだね」
そのまま2人は、アパートを出て歩きながらビデオ屋へと向かう。
2人は互いに手を握り、指を重ねていた。
トボトボと階段を上がり、アパートの玄関ドアーを開けると真っ暗な玄関口。
手探りで照明のスイッチを探しあてて明かりを付ける。
尚美の目前には朝のなごりが広がっていた。
彼女の中に、悲しみが広がる。
部屋に入り服を脱ぎ捨てると、そのままベッドに潜り込んだ。
涙が溢れる。枕を濡らしながら、尚美はいつしか眠りについていた。
ビデオはラストシーンにさし掛っている。2人は風呂上がりのラフな恰好のまま、画面を見入っていた。
一生は、壁にもたれて座っていた。その彼の身体に聡美は身を預けている。
映画は〈さ〇らい〇日〇〉と言うヨーロッパ作品。
ある日、2人は安酒場で出会う。彼女は看護婦で彼はトラック乗り。
2人は意気投合し、その日から愛情を分かち合う。だが突然、彼女は消息を絶つ。
彼は必死に探し周り、ある病院に居る事をつきとめた。2人の再会。
だが、彼女は以前とは別人のようになってベッドに横たわっていた。
身体は痩せ細り、髪の毛は抜けていた。彼女はルキミア(白血病)だったのだ。