還らざる日々U-6
───
北海道行きを打ち明けられた翌週の土曜日、一生は夕方に電話を掛けた。相手はもちろん聡美だ。
「どうする?どこかに出掛けるか」
弾んだ声の聡美。
「この前みたいに、部屋でゴハン食べてビデオ見たい」
「そうか。じゃあ6時頃にアパートに行くよ」
電話を切ってビデオデッキの準備を終えた一生は、思い出したようにキッチンにいる母親に言った。
「これから毎週土、日に都田って娘が電話してきたら、仕事だって伝えてくれないか?」
母親は忙しく動きながら〈いい加減にしときなさいよ〉と叱りつける。息子の置かれた状況が分かってるのだ。
だが、彼はその事には触れなかった。
「それと、出掛けるんで夕飯は要らないから」
「また遊びに行くの?」
「ああ、彼女のアパートだよ」
「今日は帰ってくるの?」
「さあ、分からないな。それより、さっきの事頼んだよ」
彼は、ビデオデッキの詰まったカバンを抱えて玄関を後にした。
「何を食べたい?」
彼女のアパート近くのスーパーで買物をする2人。
聡美は、一生と腕を組み上機嫌だ。
「んーっ…餃子!あの特製ニラ餃子が食べたい」
「そう言えば、しばらく作ってなかったな…」
「半年ぶりくらいじゃない。あの臭わない餃子美味しいよね」
餃子は一生が得意にしている料理のひとつだった。
ニンニクを全く使わないため、翌日の事を気にせずに食べられるのが自慢だ。
「じゃあ材料は、ニラと豚肉、ショウガと白菜に…キャベツ、餃子の皮と…」
「ポン酢はあるから…後はラー油ね!」
実に楽しげな表情でスーパーの中を歩き、食材をカゴに入れていく。
聡美が両手を〈パチン〉と合わせた。
「あっ!ビールにチューハイ!」
「大事なモノを忘れるトコだったな」
2人は顔を見合わせ、クスクスと笑った。