還らざる日々U-11
「…あ、レイちゃん?私、尚美です。おはよう。昨日はどうも…」
そこまで言うと、澪子の声が彼女の声を遮った。
「明日はどうする?先輩に謝るの」
いきなりの問いかけに尚美は戸惑った。そして〈やっぱり何かしでかしたんや〉と思うと、澪子に訊いた。
「あの、レイちゃん。私、それを聞きたかったの。私、何かしたの?」
尚美の問いかけに、澪子の声はカン高いモノに変わった。
「アンタ覚えてないの!」
澪子は昨夜の出来事を詳細に説明してくれた。聞いている彼女の顔がみるみる青くなる。
「だから、私がどうするのって聞いてるの!?」
尚美は考えようとするが、二日酔いの状態で、それは無理だった。
「今、飲み過ぎで頭痛いんよ。治ったら考える。レイちゃんありがとう」
受話器の向こうではまだ何か言っていたが、彼女はゆっくりと電話を切った。
「まぁ、やったもんはしゃーないわ!」
そう独り言を言うと立ち上がり、冷蔵庫からポカリを取り出して一口飲んだ。
「さて、昼までもうひと眠りや」
そう告げると、再びベッドに潜り込むのだった。
───
一生は昼前に目を覚ました。となりの聡美はまだ眠っている。
彼は布団からそっと脱け出すと、服を着てキッチンへ向かった。
冷蔵庫を開けると中の食材を確かめる。玉子、ベーコン、玉ねぎ、大根。一生はそれらを取り出し、包丁を握った。
春先のまどろみの中、聡美はスヤスヤと寝息を立てている。
昨日までの疲れたような不安気な表情はそこにはなく、わずかに微笑みを浮かべていた。
部屋の中に美味しそうな香りが漂う。聡美はその香りで目を覚ました。
「ンンーーッ」
大きく伸びをする。毛布がはだけ、彼女の小ぶりな乳房が露出する。
彼女は慌てて毛布をたくし上げた。裸で眠っているのを忘れていたのだ。
毛布を身体に巻きつけたまま、彼女はクローゼットから下着と洋服を取り出し、風呂場に消えた。
服を身につけ、布団を窓から干してからキッチンを覗いた。
ちょうど一生が味噌汁を作っている最中だった。