アイドルヲタですけど何か?-6
「彼女ね、本名『長嶋千里』っていうんだ」
「長嶋…?」
「そう、俺の姉貴」
「姉貴…?」
まさか。
そんな。
確かにチサさんとはオタ仲間では一番近くだったために仲良くなったけど、そんな、弟が、しかも同じ学校にいたなんて。
「驚いた?俺も驚いたけどさ。優里さんが姉貴と同じ種類の人間だったなんて」
彼は話を続ける。
「姉貴はさ、いじめられてたんだ、それのせいで。高校を卒業するまでずっと友達ができなくって。弟の俺でも気持ち悪いと思ったけどさ。アイドルと結婚できるわけでもないのに追い続けて、気付くわけないのにライブの日には着飾って、おまけに『ユウジの生声』とか言って昨日のライブで録音した声を目覚ましにしてるし。友達なんかできるわけないよ」
彼は淡々とした声でそれを話す。私の心の炎が大きくなっていることも知らずに。
頭の中で昨日のチサさんの顔が浮かぶ。「こっそり持ってきちゃいましたっ」といたずらっ子のような笑顔を見せるチサさん。
彼女がどれだけ彼らを愛しているか、私には分かる。
私も、同じだから。
「…別にいいじゃないの」
「えっ?」
「別にいいじゃないの、好きでいたって。『気持ち悪い』って、そんなことない、チサさんは気持ち悪くなんかない」
私の中で何かがはじけた。彼は目をぱちくりしている。
「追い続けたっていいじゃないの。着飾ったっていいじゃないの。だって好きなんだもん。チサさんは、私達は彼らに恋しているんだもん。好きな人のために可愛くなりたいし、そばにいたい。それはみんな同じでしょう?相手がアイドルってだけでその気持ちを悪く言うのは間違ってる。馬鹿にする権利なんか、誰にもない」
だって、彼らを愛する気持ちは普通の恋愛感情と何も変わらないもの。