還らざる日々T-6
「背中流したるわ」
「お、オマエ何や。アッチに行っとれや」
「今日、色々連れてってくれたお礼や。そのままジッとしとき」
しばしの沈黙の後、一生はため息を吐いた。
「じゃあ頼むわ…」
「石鹸ちょうだい」
尚美に石鹸を渡す一生。彼女は洗い方を真似て手で泡を塗り付けていく。
マッサージされるような心地良さに身を委ねていると、
「アッ!手が滑った!」
尚美の手が、一生の股間辺りに触れた。思わずその手を払い除ける。
「オマエ、何、フザけとんや!」
尚美は後から笑っている。
「さっきのおかえしや」
彼女は両腕を一生の首に巻きつけ、豊満な乳房を彼の背中に密着させて耳元で囁いた。
「…ねっ……しよ……」
その時、一生の身体は、抑えきれない欲望に支配された。
───
一生が尚美と関係を持って3週間が過ぎようとしていた。
あの日以来、尚美とは2週間に1度の割合で、セックスを繰り返えす間柄になっていた。
そのために、一生は聡美との距離を置くようになってしまった。
これは何も、彼が聡美の事を嫌いになった訳ではなく、むしろ〈聡美に対する後めたさ〉から出た行動だった。
一生にすれば、尚美との間柄は〈ベッドを共にする親密な友達〉と思うくらいで、〈将来を共にしたい〉聡美とは違った。
だからこそ会いたくなかった。
彼女に会えば、自身が行っている事の〈ほころび〉を取り繕わねばならなず、彼女はそれを必ずおかしいと思うだろう。
一生は尚美との関係がバレて、聡美を失うかもしれない事が怖かった。
だから、仕事の多忙さを理由に、連絡だけの関係を続けていた。