還らざる日々T-2
店を出て、通りを〇〇方面へ歩いて行く。目の前に尚美の勤める〇〇がそびえ立つ。
「腹ごなしに歩くか?」
尚美は〈ウン〉と言いながら、自分の腕を一生の腕に組みついた。
だが、どちらかと言えばしがみついているような恰好だ。
「腕を組んだら、もう少しくっついて背筋を伸ばして…」
言われたままに、尚美が姿勢を正す。
「そっちの方が歩き易いだろ」
少し酔ったためか、夜風が心地良い。2人はのんびりとした歩調で繁華街へと進んで行く。
「なぁ、私、もう少し飲みたい気分なんやけど…」
「…そうだな…じゃあ、彼処へ行くか」
土曜日の夜9時頃のためか、通りは賑わいを見せていた。
〇〇を過ぎて西〇〇にある雑居ビルの1階に〈た〇き〉と書かれた赤ノレンが見えた。
「地酒って知ってるか?」
「……ジザケ?」
「日本酒の事さ。今から行く店は、全国の地酒を取扱ってるバーみたいな店だ」
「ウチ、日本酒はちょっと……」
「まあまあ、多分、日本酒のイメージが変わるから…」
一生は尚美の肩を抱いて店のノレンを潜った。
すぐに〈いらっしゃいませ!〉と、威勢の良い声と共にボウズ頭、作務衣姿の案内係が現れた。
彼は案内係に訊いた。
「カウンターは空いてる?」
「2名様ですね。どうぞ」
右手奥へと通される。店内は壁は土壁、入口に大きな土間があり、左手は板ばりの広間となっている。
2人は、広間を通り抜けてカウンターに座った。
「いらっしゃいませ。何に致しましょうか?」
バーで言えばバーテンダーか。カウンターの向こうの店員から一生に声を掛けた。
彼は品書きを眺めながら、店員に注文する。
「オレは……鷹〇の吟醸。で、彼女は甘めで香りの良いヤツを」
しばらくして、店員がグラスに入った酒を2人の前に置いた。
尚美の前に置かれたグラスは、淡いピンク色をしている。