還らざる日々T-14
やがて次の客がホールに入って来た。すれ違いざまに2人を見て行く。
一生は、ただ、聡美の髪を優しく撫で続けた。
「今夜はオールナイトだから、もう1回見て行こうか?」
彼女はゆっくりと顔を上げると一生を見た。目は赤く、瞼は少し腫れていた。
「…ごめんなさい」
彼女はそれだけ言うのが精一杯のようだ。
「気にするな。落ち着くまで居よう…」
照明がゆっくりと落ち、次の上映が始まった。
2度の上映を見終わると、聡美は落ち着きを取り戻していた。
映画館を出た2人は、夜中の街並みを歩いていく。
帰り道〈帰って飲むか〉と、一生はコンビニで買い物をしてから聡美のアパートに向かった。
部屋に帰ると、一生は買った物を袋から出して部屋のテーブルに並べる。
「ほい!ビールにチューハイ、ポテトチップにチョコレート、それにアイス…」
わざと陽気に振る舞う一生。
聡美はその雰囲気につられてチューハイを飲みだすが、まだいつものようにはいかないようだ。
ビールやチューハイの空缶が数本並ぶ頃、ようやく2人に笑顔や笑い声が出るようになった。
一生の口からアクビが出る。
「眠くなってきたな。もう寝るか…」
「その前に、お風呂に入って着替えてよ」
聡美は湯沸かし機に火を付けた。
「夜中だからシャワーはダメよ。うるさいと周りに迷惑だからね」
酔った一生はニヤニヤ笑ってる。
「だったら一緒に入りゃええやん。時間少のうて済むんちゃう?」
そう言うと服を脱ぎ、さっさと風呂場に向かった。
聡美は戸惑っていたが、結局、一生に続いてバスルームに入った。
一生はニッコリと笑う。
「ヨッシャ!ほな、洗いっコしよか」
そう言って聡美の背中をタオルで洗い出した。
うなじなら背中、腰と後側をこすってやる。
「ハイ!前向いて」
「…でも……」
困っている聡美に一生は言った。
「何恥ずかしがってんねん。どうせ、先で一緒になるんやから。ホラッ」
一生の言葉に目を潤みそうになる聡美。意を決して身体を彼に向けた。