還らざる日々T-11
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「ねぇ、私、やった事無いよ」
「大丈夫だよ。前後と左右のボタンを1回づつ押すだけだから」
先ほどのタワーから、徒歩で10分ほどの場所にあるゲームセンターに2人は訪れた。
一生は、彼女にクレーンゲームをやらせようとしていた。
「上手く掴めば、そのぬいぐるみはオマエの物になるんだから…」
「…う、うん…」
聡美は緊張した面持ちでボタンを押した。それを見守る一生。
クレーンが前に移動する。真ん中を過ぎた辺りでボタンを離した。
「うまい、うまい。次は、この辺りを狙って動かして」
一生のアドバイス通りにボタン操作する聡美。クレーンはぬいぐるみの真上で止まった。
「…いけるんじゃないか」
クレーンがゆっくりと降りていく。目を凝らして見つめる一生。聡美は不安な顔をしていた。
爪が開き、ぬいぐるみを掴む。
「オオッ!」
クレーンがぬいぐるみを持ち上げ、ゲーム機の外に運ばれた。
その瞬間、一生は聡美の肩を思わず叩く。
「…オマエ凄いやんか!初めてで取れるなんて。天才ちゃうか?」
興奮気味に喋る一生。聡美は意味が分からず目をパチパチさせている。
「ヨシッ!ガンガン取って、部屋中、ぬいぐるみだらけにしょう」
一生は、その後も聡美にゲームを続けさせた。
だが、そう上手く事は運ばず、全て失敗して原価数百円のぬいぐるみは、2千円以上もする高価なモノに化けてしまった。
「…ごめん。最初で止めときゃ良かったね」
落ち込む聡美の肩を抱き、一生は陽気に振る舞う。
「気にするなって。たかが遊びだ。それより、次、行くぞ!」
「エッ?!」
「エッじゃ無いよ。次は映画だ!」
そう言って、ゲームセンターを出た2人。タワーへの道を、のんびりと戻って行く。