還らざる日々T-10
「…すごくキレイ…」
全てのモノがミニチュア模型のような風景が広がる。
2年前に建てられた、300メートルを超えるタワーの展望台。
西側は海のため、真っ暗な中に点滅する灯りが。
東側は星屑を散りばめたように、様々な人工の光が彼方まで広がり、境界線で星の光と混ざりあっていた。
聡美は、さっきまでの塞ぎ込んでいたのがウソのように目を輝かせている。
そんな姿に一生は、連れて来て良かったと思った。
「ここも久しぶりだろ…」
彼女のとなりに立ち、西側を見つめて一生は声を掛ける。
「…以前は昼間で、その、どこまでも広がる景色に圧倒されたけど……夜は、同じ景色なのに…キレイで幻想的ね…」
聡美は冊から身を乗り出し、夜景から目を逸さない。
「…オマエと付き合い始めた頃、オレは夜、ひとりで来た事があるんだ…」
一生の言葉に、聡美は夜景から視線を外して彼を見た。
「仕事が上手くいかず、いっそ辞めてしまおうかと悩んでいた…」
そこまで話し、彼は聡美を見つめた。
「その時、ここからの景色を見て悩みが消えた。
〈なんとバカな事を考えてるのか。のめり込むほど、やりもしないで…〉
と、思ったのさ。そのおかげで、今は楽しい思いをしている」
話し終えた一生は、実に穏やか表情だ。
「ありがとう。連れて来てくれて」
「そろそろ閉館時刻だ。次に行くか…」
「うん!」
2人は展望台を後にした。
「見ろよ」
タワーから少し離れた場所で、一生は背を向けた。
淡い照明に浮かび上がったタワーは巨塔の如く、天へと伸びていた。