ヒメゴト〜a scond time〜-3
「昨日…様子がおかしかったからさ…」
麻衣子はハッ、と我に返った。
うつ向いたまま、陽介はボソリ、と口を開き、
危うく聞き逃す所だった。
二人きりで落ち着いて会話を交すのはほぼ初めてで、お互い、探り探りに会話を進めている。
「昨日…?」
麻衣子は首を傾げ、
昨日一日を振り返る。
途端、第三会議室での情事を思い出し、
瞬間で顔が高揚する。
「いえ…特に何も…」
麻衣子はうつ向き、
言いながら陽介の手が目に入る。
(綺麗な手…)
胸がキュン、と鳴り、
思わず見とれてしまう。
「俺さ…色々考えたんだけど…」
重苦しく口を開く陽介に、瞬間で麻衣子は危機を察知した。
恐る恐るゆっくり顔を上げると、
バチッ、と目が合う。
麻衣子が心の準備も出来ぬまま、
陽介は言葉を繋げる。
「野村さんの事……」
ドキドキと高鳴る鼓動が、お互いに聞こえそうで、
緊張感が増していく。
恐怖を一心に感じながら、麻衣子は真っ直ぐに見つめられた陽介の瞳から目を離すことが出来ずにいた。
「良く知らないし…」
陽介の目の色が変わりピリピリした空気を、
煽る様だった。
麻衣子は恐怖にうち勝てずに、
ギュッ、と目を瞑る。
「だから…嫌じゃなければまた…野村さんの…家…に行ってもいいかな…?」
予想外の言葉に、
麻衣子は目を開き、
陽介を見つめる。
今度は陽介がばつが悪そうにうつ向いた。
しばらくの沈黙が続き、
麻衣子は陽介の言葉を一からなぞり、
慌てて返事をした。
「も、勿論です。何もないですけど…」
麻衣子を伺う様子で、
ゆっくりと陽介の顔が上がり、
ふぅ、と大きく溜め息をついた。
「良かった。じゃあ行こう?」
膝をポン、と叩き、
陽介は立ち上がり、
手を差し出した。
麻衣子はドギマギしながら陽介の手を取り、
帰り支度を手早く済まし、二人で帰路に着いた。