汚れた（けがれた）コブシ-1
−汚れた（けがれた）コブシ−
「あの箱だけは見つかってはいけない．．．」
彼が最後に口にしたのはそんな言葉だった。
彼、ジョージは飛ぶ鳥を落とす勢いの若手プロボクサーで人気も抜群だった。
しかし．．．
プロとはいえ、ジョージの生活は同世代のサラリーマンとは比べ物にならないぐらい
質素なもの。
そんなある日、人気アイドルを多数抱える芸能事務所から、売り出し中のアイドルとの
エキシビジョンマッチの話が持ち上がる。
「うまく負ける事」を条件として．．．
代わりに多額のギャラを支払う事と、希望があればジョージの引退後の生活、つまり
芸能界入りの全面的なサポートをすると契約書には書かれていた。
ジョージは悩み、愛用していたグローブを封印する事で気持ちを割り切る事にした。
「一度きり．．．一度きりだ」
そして、エキシビジョンマッチ
ジョージはアイドルの猫パンチの前にマットに沈む
素人の勢いだけのラッキーパンチにしか見えない猫パンチに．．．
試合後、ジョージは録画ビデオを観て思った。
「うまく演じた。」
それだけに試合後は後悔の想いに押しつぶされそうになる。
ボクサーとしてのプライドを金で売ったのだ。
自分を責める気持ちに耐え切れなくなったジョージは、浴びるほど酒を呑み
夜の街をふらついた
ドンッ！！
「って〜な！！ん？おめぇあのアイドルにKOされたヘボ・ボクサーじゃねぇのか？
あんな猫パンチでＫＯなんざ、俺たちより弱いんじゃねーのか？あ〜？！」
自棄酒でフラフラになったジョージに絡む酔っ払い達
「うるへー！！」
・・・土砂降りの雨、頭から血を流し道に倒れるジョージ
酔っ払いの一人がビールケースでジョージの後頭部を後頭部を殴ったのだ。
「ざまーみろ！！」そういい残し去る酔っ払い達
意識が薄れいくジョージの耳に、携帯電話の着信音が聞こえる。
試合の事で喧嘩別れしたままの恋人からの電話だった。
「あっ．．．あいつに、あの箱だけは見つかってはいけない．．．」
そうジョージは言い残しこの世を去った。
厳重に封印された箱の中には、悲しい輝きの指輪がひとつ
そして「これでチャンピオンになる」と誓った、親指にＪと書かれたグローブ
ＥＮＤ