還らざる日々T-1
尚美と街で楽しんだ翌土曜日の午後、一生は自室でビデオデッキの配線を外していた。最近買ったばかりのヤツだ。
デッキの配線はテレビとオーディオに繋がっていた。
それらはひとつのラックに納められ、部屋の角隅に据えられている。
だから、配線を外すとなるとラックを手前に引き出し、裏から外す必要があり、結構な重労働となる。
オマケに配線をキレイに仕上げようと、全てをカバーに収納したので、それをはがすのがまた一苦労だ。
ようやくビデオデッキが外されたのは、作業開始から1時間後の事だった。
「ヨシッ、後は梱包だ」
額に滲む汗を拭きながら、一生はビデオデッキをクッション材で何重にも包んでテープを貼った。
それをビジネス・バックに詰めてみるとピッタリ納まった。
一生は付属品を無理矢理バックの隙間に収納すると、バックをタスキ掛けにして担いでみた。
重みから、かなり肩にくい込んで首にも負担が掛かる。
「まあ、何とかなるだろう…」
時計を見ると午後5時半を指している。
一生はバックに横ヒモを掛けて固定させると、玄関を出てバイクに股がり、そろそろと自宅を後にした。
同じ頃。いつもより少し早く目を覚ました聡美は、部屋の片づけをしていた。
部屋の隅に置いたテレビと台を手前に引き出し、裏に付いたホコリを雑巾で拭いている。
掃除はこまめにやっているつもりだったが、テレビの裏はおざなりになっていたようで、かなり埃で汚れていた。
バケツの水を替えたりして、ようやく終わった時には午後6時を少し回った頃だった。
テーブルの上に小さな花瓶に入れたコスモスを飾った。
近所のお婆さんから貰ったモノだ。
看護師を目指している彼女は人との関わりを沢山持ちたいと、アパート近くの自治会で行われる地域清掃や見回りなどの行事に、時間の許す限り積極的に参加するようにしていた。
地元の者が主体で行っているのだから、最初は変な目で見られたが、それでも続けて参加するうちに周りとも打ち解け、今では近所の人に広く知られるまでになっていた。
花を貰ったのもそのひとつだった。
「これで準備出来たっと!」
聡美はテーブルの前に座って、飾った花を柔和な顔で眺めていた。
1週間の辛さから解放された土曜の夕方が1番好きな時刻だった。
「ヨシッ!これで準備オッケーだ」
一生が聡美の部屋を訪れ、テレビにビデオデッキをセットした。
「じゃ回すぞ」
デッキの電源を入れ、再生スイッチ押すと、すぐにレース番組がテレビ画面に映った。
一生が一緒に持って来たビデオテープの画像だ。