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過ぎ去りし日々
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還らざる日々T-9

「なんや!そんなに仕事が大事なんか。私、誕生日なんよ!」

 もう、こうなっては水掛け論だ。
 一生は煩わしさを隠そうともせず返答した。

「悪いが切るぞ。こんな事なら2度と掛けてくるな!」

 受話器から耳を外した。まだ何か言っているような音が聞こえていたが、構わず元に戻した。

 一生はマールボロに火を着けて窓の外を見た。

 真っ暗な風景の中、はるか遠くに沢山のきらびやかな灯りが見える。
 彼は再び席に着くと、モニターをしばらく睨んでからキーボードを叩き始めた。

 再びそばの電話が鳴り出した。

〈どうせあの女だろう。今はそんな事よりも、この資料だ。重役達にインパクトのあるモノにしなくては…〉

 電話の音が続く中、彼はキーボードを叩き続けた。




───


「…以上のように、このシステムを導入すれば作業時の危険性の軽減、及び年間約300万円の産業廃棄物処理費用を削減出来ます。
 次にイニシャル・コストとランニング・コストですが……」

 一生のプレゼンテーションが終わった。重役の一部からは拍手が挙がっている。

「浅井君、良かったよ」

 会議の後、一生に部長の相原が話し掛けてきた。彼は小門の上司だった。

「ありがとうございます。部長のアドバイスのおかげです」

「今日の会議の感触からすれば、君の提案は了承されるよ。そうすれば、君が責任者となってやってくれ」

「私がですか?」

「そうだよ。君のように若くてアイディアのある者にはチャンスも与えなくちゃ」

 一生は常々相原に好感を抱いていた。
 保守的な社風の中で、唯一、リベラルな思考で会社の事を考える人物だった。

 一生は、目を輝かせて相原に答える。

「分かりました!その際は精一杯やらせて頂きます」

 相原は〈じゃ頑張ってくれ〉と言って、その場を立ち去った。
 一生は相原に深く頭を下げ、彼が立ち去るのをしばらく眺めていた。

 一生は自分の心の中で、ふつふつと湧き上がるモノを感じていた。


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