還らざる日々T-6
「勘違いしないでね。あなたがやった事を否定しているわけじゃないのよ。
現に入院してから塞ぎ勝ちだったお婆さんが、あんなに笑ってるのなんて私達も初めて見たわ。
ただそれはケースバイケースでやるべきなのよ。分かるでしょう?」
聡美はコクンと頷いた。
「どこもそうだけど、病院は少ない人数で大勢の患者さんを見なくちゃならないから〈広く浅く〉が原則なのよ」
「分かりました。すいませんでした」
「分かってくれれば良いわ。さっ、食べなさい」
再び食べだした聡美。ただ、その表情は塞いでいた。
───
「オイ!いつまで寝てんだ?いい加減起きないとバイト遅れるぞ」
一生の声で目を醒ました聡美は、寝ぼけ眼で辺りを見回した。既に外は真っ暗だ。
「今、何時?」
「7時半」
「ああーーっ!!ヤバい、バイトに遅れちゃう」
寝床の布団を跳ね上げるように彼女は起き上がった。
彼女はクローゼットから下着と服を持って、駆けるように風呂場に消えた。
シャワーを浴びて、ジーンズとトレーナーに着替えて戻って来る。
髪をブローして僅かだが化粧も施す。
「今、何時?」
「8時ちょうど」
聡美の顔に少し安堵の表情が見える。余裕が出来たのだ。
「…ホラ、これ食え」
一生はテーブルの上に袋を置いた。ハンバーガーが無数に入っている。
「どうしたのコレ?」
「お前と食おう思ってな。本当は大判のピザでもと思ったんだが…給料前でな」
聡美は一生の心づかいが嬉しかった。
「お前、ハンバーガー好きだろ。遠慮しないで食ってくれよ。
余ったら、冷凍すればしばらく保つからな」
「あなたの夕食は?」
「オレは家に帰りゃメシくらいあるから。あ、他にコーラとポテトも入ってるからな」
一生は袋から取り出し、聡美の前に置いた。
聡美はハンバーガーを口に頬張りながら、ポツリと呟いた。