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過ぎ去りし日々
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還らざる日々T-5

「そう。でも看護婦の仕事って思ったより大変よ。
 時間は不規則だし、いつ呼び出しが掛かるか分からないから食事も急いで食べる必要があるの。
 それに皆小走りで歩くでしょう。いつも仕事に追われてるの。とても〈白衣の天使〉じゃ無いわよ」

「大丈夫ですよ!私、昼間は学校に通いながら夜は市場で働いてるんです」

 聡美の勢いのある返答にお婆さんは最初、面喰らった。
 だが、すぐにクスクスと笑い出した。
 笑いが止んだ頃、聡美がお婆さんに訊いた。

「お婆さん。看護師さんの事、詳しいんですね」

 お婆さんは一瞬真顔に戻った。
 が、すぐに先程までの穏やかな表情に戻ると話を続けた。

「私もね、昔、看護婦だったの。昭和4年だから今から60年前ね。
 それから35年間看護婦を勤めたの」

「そうだったんですか。大先輩だったんですね」

 聡美がそう言うと、2人はまたクスクスと笑いながら食堂へと向かった。




 食堂での付き添いを終え、聡美が看護師達が居る地下の会議室に着いたのは、午後1時をかなり過ぎてからだった。

 彼女がドアを開けると皆、昼食を終えてディスカッションの最中だった。

「すいません。遅くなりました」

 聡美がそう言うと、まわりの看護師達より少し年輩の、ナース長らしき女性が言った。

「それじゃ、あなたは昼食を摂りながら参加なさい」

「ありがとうございます!」

 看護師との質疑応答が進む中、彼女は自分のカバンから弁当を取り出して机に広げた。

「竹本さん」

 誰かが自分を呼んでいると分かった聡美は、慌ててお茶で口の中のものを流し込んだ。

「は…はい!」

 声の主は先ほどのナース長だった。

「竹本さん。さっきお婆さんを食堂に連れて行ったでしょう。とても良い応対だったわ」

 聡美はそう言われて照れくさくなった。
 だが、ナース長の次の言葉は意外というか当然だった。

「でもね、あれじゃ0点なの。あの食堂では全部で40人あまりの患者さんが食事を摂るわ。
 それを、看護師やスタッフ8名で連れて行くの。だから1人だけに付き添ってちゃダメなのよ」

 ナース長の言葉に、聡美は黙って俯いてしまった。
 その様子にナース長は少し慌てたように言葉を続ける。


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