還らざる日々T-4
話も当時としては斬新なモノだった。40歳で結婚もぜずにパリの国立図書館に勤める女性と、20歳で小さな劇団でダンサーの男性がひょんな事から知り合い、いつしか惹かれ合う。
しかし、彼女は親子ほど年の離れたダンサーとの事に想い悩みつつ、彼を深く愛してしまった。
映画は半分を過ぎてエンディングに向かって進んでいく。
壁にもたれたまま食い入るように見つめる一生。聡美は立て膝をして頬杖をついて見ている。
その時だ。聡美は急に立ち上がると、一生のそばに歩み寄り、彼にもたれかかった。
彼女の意外な行動に一生は最初戸惑ったが、すぐに両手を腰にまわして引き寄せる。
映画は2人の別れをドラマ・チックに演じていた。
別れを告げた彼女は、精一杯の笑顔で彼に語り掛ける。
最後の抱擁を交した後、彼女は踵を返して立ち去る。
彼女の目から大粒の涙が流れ落ちていた。
一生のまわした手に、聡美の手が重なる。彼は聡美の首筋にキスをした。
聡美の口から甘い吐息が漏れた。
「…いい?」
かすかに頷く聡美。
まわした手が服をたくし上げる。
画面に映画のエンド・ロールが流れる。
2人はゆっくりと床に倒れ込むと、絡まるようにお互いを求めていった……
───
聡美は〇〇で短大を得て、看護専門学校に通っている。
学校は2年制で、指導レベルの高さでは県下で有名だ。
1年目は学識中心の授業で、2年目からは実技中心となる。
基本的な作業はもとより、人間相手のため、様々なトラブルにみまわれた場合にも迅速に対応出来るよう、トラブル・シューティングも組み込まれている。
聡美も専門学校に入って2度目の冬を迎えようとしていた。
今日は授業の一環として、病院での実習に訪れていた。
もちろん治療などは行えないので、リハビリテーションの手助けをしたり、車椅子を押すくらいだったが、聡美にとってはどれも新鮮で楽しかった。
特にお年寄りの患者と接するのは好きだった。
午前中の実習が終わって昼になった。
この病院では重い病気で入院している以外の患者は、食堂で昼食を摂る事になっていた。
聡美達は、この昼食の世話をして今日の実習は終わりで、その後は看護師達と昼休みを兼ねた意見交換会が予定されていた。
聡美は車椅子のお婆さんを任され、食堂へと向かっていた。
その時だ。そのお婆さんが彼女に話し掛けてきた。
「あなたは新米看護婦さんなの?」
お婆さんの声は柔らかだった。
「いいえ。私、看護師になるための学校に行ってるんです。来年には新米になるでしょうけども」
聡美は答えながら、そのお婆さんを観察していた。
車椅子に乗ってるから足は不自由なのだろうが、身なりはキチンとして髪もとかしている。肌も艶があって元気そうに見えた。