還らざる日々T-3
「これで明日の朝は牛丼だ」
にこやかな表情で声を掛ける。
片づけを続ける聡美は、黙って一生に笑顔を向けた。
片づけを終えて、やっとビデオ鑑賞となる。
時刻は9時半。借りてきたビデオは3本、見終わる頃には午前3時を過ぎてるだろう。
「まずコレ。これ見たかったの」
と、彼女が言ったのは〈風の〇のナ〇シカ〉だ。
彼女いわく、数年前話題になった有名なアニメーションだそうだ。
一生にすれば、〈アニメーション〉と言う呼名から抵抗があり、彼の中では〈マンガ映画〉だった。
その上、マンガ映画は子供の見るモノと決めつけていたので、対して期待もしていなかった。
しかし、一生の思いは裏切られた。
異世界観の設定やストーリー構成など、一般の映画としても十分通用する内容だった。
「これ…ハリウッドだったら実写化するな」
一生は見終わった後、ポツリと漏らした。すると聡美は、
「何言うの!これはアニメーションだから良いのに」
と、語気を強める。こうなっては平行線だ。
一生は苦笑いを浮かべた。
次は一生の選んだ〈〇0〇0〉というSF作品だった。
前作が「〇00〇年宇〇の旅」という超話題作で、約20前の作品なのに全く色褪せず、その幻想的な雰囲気が一生は好きだった。
その続編なので、彼は大いに期待していたのだが、その内容と雰囲気は〈普通〉に成下がってしまっていた。
「…何だか、がっかりした」
一生は余韻に浸る事なくビデオテープをデッキから抜き取った。
「最後はね、私の一番好きな映画なの」
聡美はそう言うと一生にビデオテープを渡した。
それは、〈砂〇〇〉というタイトルの映画だった。
一生は最初、自分がヨーロッパの映画が好きなのを知って、彼女が気を遣って借りてくれたのだろうと思った。
彼は人間の愛憎や葛藤を描くヨーロッパ映画が好きだった。
日本でも同様な作品はいくつかあるのだが、妙に生々し過ぎて好きになれなかった。
だが、この映画は見た事がなかった。ビデオのラベルに書いてある俳優や監督の名を見ても、よく解らなかった。
「これはね。随分前に深夜番組で見たの。それきり忘れられなくて…」
一生は彼女の話からもう一度ラベルを見た。たしかに1,970年作品とある。今から20年近く前だ。
そして映画が始まった。たいして興味を持たず、壁にもたれかかって見ていた一生だが、話が進むにつれ作品にのめり込んで行った。