還らざる日々T-2
「スゴイ、スゴイ!」
聡美は手を叩いて喜んだ。
「じゃあビデオ借りに行こ!ネッ!」
一生が聡美の下半身辺りを指差す。
「そりゃ良いけどソレで行くのか?」
聡美は下を見た。デニム・スカートだったのだ。
「ちょっと着替えてくる!」
彼女は慌ててクローゼットからジーンズを抜き取ると、風呂場へと消えて行った。
そして直ぐにジーンズ姿で現れた。
2人でアパートの階段を降りてバイクに寄る。
ヘルメット・ホルダーにはジェット・ヘルが掛っていた。聡美の分だ。
一生がそれを外し、アゴ紐を両方に引っ張りながら聡美に被せてやった。
一生もフル・フェイスのヘルメットを被ると、2人はバイクに跨り、ビデオショップに向かった。
───
キッチンには美味しそうな匂いが漂っていた。
一生がすき焼きを作ってる。
ネギ、豆腐、シラタキ、牛肉、白菜が鍋の中で踊っている。
「ヨシ、後は仕上げだ」
一生は春菊を鍋に入れると、ひと煮立ちさせて火を止めた。
「オ〜イ、そっちはいいか?」
「ハ〜イ!いいよ」
聡美は、食器を並べながら返事をする。飾った花瓶は下に置かれていた。
一生が鍋を持ってきた。すかさず聡美が、テーブルの真ん中に鍋敷き代わりの雑誌を置いた。
「うわぁ、美味しそう!あ、うどんも入ってる」
「オレのオリジナルだ。うどんを入れてんだ」
一生は聡美から器を受け取ると、様々な具を注いで彼女に渡した。
聡美が具材を口に運ぶ。一生はジッと見つめて彼女の言葉を待った。
「美味しい〜!結構あっさりしてる」
その言葉を聞いて一生も一口食べた。口に広がる味を確かめながら、何回もひとり頷ずいた。
自分がイメージした通りに出来たのだろう。
「あまり濃い味だとクドいだろ。うどんも入れてるし。だから薄味にしたんだ」
自分なりの講釈をのたまう。
その後2人は、あまり喋らず鍋に没頭する。
彼に言わせると、料理は出来上がりの温度が1番旨いわけで、ゆっくり食べてるとその旨い時期を逸してしまう。
だから、早く食べるのだそうだ。
もちろん、聡美も一生に合わせて黙々と食べている。
2人が〈ごちそうさま〉と言った時、鍋の具材はあらかた無くなっていた。
聡美が後片づけをしている間、一生はあまった肉やネギをフライパンで軽く炒めて、鍋に放り込む。
そして、鍋を10分程煮立たせて火を止めた。