やっぱすっきゃねん!Ulast-1
「…しかし、驚いたな。全国制覇だなんて…」
校舎横の校門までの通路。傾きつつある冬の日射しを背に、直也が口を開いた。
「…私も…地区大会の事ばかり考えてたから……」
となりで自転車を押す佳代も、相づちを打つ。
初練習を終えた夕方。2人は学校を後にしながら、先程までの出来事を思い出していた。
神社で〈全国制覇〉を祈った後、グランドに戻って4日ぶりの練習が始まった。
ほとんどの部員は、自分なりにトレーニングを続けていたようで、動きには軽快感が漂っていた。
永井や一哉は、そんな姿に満足したのか、練習を終えて整列した部員達に笑顔で明日以降の簡単なミーティングを行っていく。
和やかな永井の口調に、すっかり気を良くした部員達。つい、心のガードを下げてしまった。
その時だ。
永井の口調が変わった。それは、厳しさを混じえたモノだった。
「…今から呼ばれたヤツは、前に出て来て並ぶように…」
永井は、ユニフォームのポケットから手帳を取り出し、パラパラとめくると視線を部員達に移した。
「達也、それから淳、それに直也」
呼ばれた3人は、何事かと顔を見合わせながら列を離れた。
「次が…稲森に秋川…それとカヨ」
「エッ!私」
奇声に永井の視線が佳代に集中する。
「返事をしてから前に出て来んか!」
「…す、すいません!」
頭を下げ、列を離れる佳代。
(…何か…決めるのかな…?)
佳代は、同じように前に立ち並ぶ直也達を見つめて、永井の言葉を待った。
「…まず山下達也をキャプテン、それに橋本淳と川口直也を副キャプテンとする…」
手帳を見つめながら、永井はなおも言葉を続ける。
「…それから稲森と秋川は守備係。最後のカヨは教育係だ…」
すかさず稲森が手を上げた。
「監督…守備係と教育係とは何ですか?」
その言葉に永井は即答する。
「守備係は、守備中の野手の意識を統一させる係だ。オマエと秋川はショートだから、キャッチャーやセンターと協力して守備位置や連係パターンなどを取り決めるんだ……」
なおも説明は続く。
「…それと教育係は読んだ通り、上級生が下級生を束ねる係だ。
言わば下級生のキャプテン代わりだな」
(…何故、そんなのを私に……)
突然の任命を、佳代は不可解に思った。
確かに、夏休み明けから4ヶ月間、前監督との約束で1年生と行動を共にしている。
だが、改めて係とするなら橋本や直也のように、下級生が一目置く存在の方がまとまり易いハズだ。
だが、監督が決めた事だから反論は出来ない。
佳代は仕方なく教育係を引き受けた。