やっぱすっきゃねん!Ulast-6
帰宅してシャワーを浴びた佳代は、ふと、洗面所の鏡に映った自分の顔を見た。
(笑顔か…)
先ほど山下に言われた言葉が頭をよぎり、鏡に向かって笑顔を作ってみる。
ひとり笑顔を作って、鏡に映して眺めていると、
「姉ちゃん。何してんの?」
いつの間にかバスルームのドアーは開かれ、修が眺めていた。
「な、な、何よ!ア、アンタは!」
裸を見られた事よりも、笑顔を作って鏡に映してたのを見られた恥ずかしさが上回る。
「シャワーに行ったきり出て来ないから、母さんが呼んで来いって」
「わ、分かったわよ!」
慌ててドアーを閉めたところで、ようやく正気を取り戻した佳代は裸なのに気づいた。
「修!アンタ、人の裸見たわね!」
佳代は怒り心頭の表情で、ドタドタとキッチンに現れた。
すると、母親加奈と修が彼女を見るなりクスクスと笑ってるではないか。
「裸で鏡見て笑ってたって?見られてるのも気づかないで」
加奈の言葉に、耳まで赤くなる。
「このぉ!修のお喋り!」
怒りに任せ、修を捕まえようと手を伸ばす。
しかし、一瞬早く修は逃げていた。
「待て!コラッ!」
テーブルの周りを駆け回る佳代と修。
必死に捕まえようとするが、弟も必死に逃げる。
「ちょっと!アンタはこっちよ」
佳代は加奈に襟首を掴まれキッチンに連れて行かれた。これから夕食の準備なのだ。
「…クソッ、後でとっちめてやるから…」
ブツブツと文句を言いながら、仕方なく加奈の手伝いを始めた。
「何で鏡なんて見てたの?」
鶏肉をひと口大に切りながら、加奈が訊いた。
「…いや、達也が…練習中に笑顔が無いから笑えって…」
佳代は切られた鶏肉に塩をふり、キッチンペーパーに並べながら答える。
「下級生に教えるんだからねぇ、笑顔は必要ね」
かつての〈先輩〉として意見を述べる加奈。しかし、
「…でもね。初めてだから、上手くいかないし、何だか疲れるし、その上、自分の事もこなさなきゃならないし…」
つい弱音を吐いてしまう佳代。
「まだ初日でしょう?大丈夫よ。ひと月もすれば慣れるから、それまで頑張りなさい」
「そうだね…」
佳代は鶏肉の水気を取り除きながら、加奈の意見に力無く頷いた。