やっぱすっきゃねん!Ulast-5
「ホラッ、もっとスピード上げて!」
その声は和田や下賀茂など、遅い1年生部員に向けられていた。
「1年ラストッ!」
葛城の声と共に1年生は全速で500メートルを駆ける。
「ホラッ!置いてくよ!もっと速く」
1年生に混じって途中までダッシュを見せる佳代。その声に触発されて、スピードを上げようとする1年生達。
1年生のランニングが終わると、普段通りの残り5周をこなす。つまり、佳代にとってはダッシュ1回分増えたわけだ。
「…ハァ…ハァ…」
ランニングを終え、激しい息遣いのまま給水所まで駆けると、コップ2杯のスポーツドリンクを一気に飲み干し、すぐにストレッチへ向かった。
「もっと息を吐きながら、ゆっくり深く伸ばして」
佳代は先にストレッチをやっていた1年生の中に混ざり、やり方を矯正する。
その後も、キャッチボールや素振りにと、細かく1年生に教えながら、自身の練習もこなした。
ただ、いつも1年生と接する時のような、笑顔は無かった。
───
夕方。着替えて駐輪場へ向かうと、直也以外に、達也に淳も待っていた。
最初に口を開いたのは達也だった。
「…どうだ?教育係は」
問いかけに苦笑いを浮かべる佳代。
「なんだか…余計に疲れる。やり方も手探りだし…」
不安気に答える佳代に対し、淳は励ますように言った。
「あんなモンでいいんじゃないか?オレ達だって似たようなモンだから」
「エッ?」
不可解な表情を察したのか、直也が答える。
「初日に決まった時、3人で話し合ったんだ。兄貴みたいにやろうって…」
達也が割って入る。
「でもよ。いつも厳しい顔してたぞ。もう少し笑顔を出せよ」
「…そんな事言ったって、下級生に教えるのって初めてだから…」
「無理してでも笑えって。下のヤツは敏感だからな。その辺は…」
「…うん」
達也のアドバイスに佳代は頷いたが、その顔はどこか辛そうだった。