やっぱすっきゃねん!Ulast-3
「あんな恥ずかしい思いしたの初めてだよ!」
家族揃っての夕食時。
いつものように佳代のお喋りから始まり、朝のイヤな事が口を付いて出てしまった。
「…だったら明日から遅刻しないで行きなさい」
その話に、母親の加奈でなく、父親の健司が意見を言った。
「だって!遅刻ったって2〜3分だよ!」
「それでも佳代は、皆に迷惑を掛けてるんだ。明日から10分早く家を出れば済む事だろう?」
「…そりゃ、そうだけど…」
「直也君や達也君がイヤな思いをさせたのは、佳代に遅刻癖を直してもらいたいからなんだよ」
「それも分かるけど…」
「佳代。誰も好きで叱ったりしないよ。叱る方も辛いんだ。
でも、チームを成り立たせるためには仕方ない事なんだよ」
健司の言う事はもっともだと佳代は思った。
「…分かった。明日から早く起きるようにする」
そう言った佳代の顔は、先ほどまで見せた不機嫌さは無くなり、いつもの笑みに戻ってた。
───
翌朝。8時半に部室のドアーが開いた。
入って来たのは山下に橋本、直也それに稲森だ。
まっ先に部室に来て、グランドで皆を待つ。前キャプテン信也がそうだった。
着替えながら、直也が山下に話掛けた。
「なぁ、カヨ、来るかな?」
「さあな。もし、遅れりゃ土下座させるだけだ」
「…相変わらず厳しいヤツだな」
「仕方ないさ。アイツの遅刻癖を直すためだ…じゃないと教育係なんて出来ねえからな」
山下は着替え終わると部室から出て行ってしまった。
他の者も、次々とグランドへ向かっていく。
ちょうどその頃から、入れ替わるように他の部員達がゾロゾロと現れた。
そんな中、自転車で駐輪場へ向かう佳代の姿が見られた。
山下は校舎の時計を見た。8時40分。いつもより10分も早い。
(どうやら土下座はさせずにすむようだな…)
山下は心の中で安堵した。それは、橋本や直也も同様だった。
9時8分前。グランドに佳代が現れる。それを迎える山下の表情は柔和だった。