やっぱすっきゃねん!Ulast-21
「…ね、姉ちゃんが藤野コーチとノックやって…そしたら倒れて。でも、大丈夫だからって…」
澤田家。ひと足先に帰った修は、藤野からの伝言を身振り手振りも混じえて伝えようとするが、気持ちばかりが焦って上手く伝わらない。
「だから、佳代はどうしたの?」
「と、とにかく!もうすぐ藤野コーチが連れて来るから」
「アンタ、バカねぇ!それを先に言いなさいよ」
加奈はバタバタと藤野を迎える準備を始めた。
「ヘッ?…ここは…」
真っ暗な天井。前方のわずかな窓から流れる光の帯。
「気が付いたか?」
佳代は声のした方をそっと見た。
わずかな明かりから一哉だと分かった。
「私、ノックを受けてて…」
身を起こそうとしたが動かない。その上、身体中に痛みが走った。
「…ああ、スマン。オマエが気を失ってたんで、シートベルトをきつく締めてるんだ。もうすぐ着くから辛抱してろ」
「着くって何処に?」
「オマエの家に決まってるだろ」
その瞬間、佳代はシートベルトを解除して起き上がる。
「私の荷物や自転車は?学校に置いたままですか」
「心配するな。永井監督が積んでくれたから」
一哉は親指で後方を指差した。1台の1ボックス・カーが付いて来ていた。
ほどなく、2台のクルマが澤田家の前に止まった。
加奈に修、それに健司までもが佳代を出迎えた。
「…あぃ…痛てて…」
全身ドロだらけ、埃まみれでクルマから降りてきた佳代。
「姉ちゃん!大丈夫か?」
修は心配気に腕を掴んだ。途端に顔をしかめる佳代。
「いっ!痛いぃ…さ、触るな…」
「先にお風呂に行きましょう」
佳代は加奈に連れられ、ヨロヨロと家の中へと向かった。
健司は荷物を自宅へ、一哉と永井は自転車を裏庭に置いた。
〈ちょっとお茶だけでも…〉
健司の誘いに、一哉と永井はリビングに通された。
「初めまして。父親の健司です」
「こちらこそ初めまして。野球部監督の永井です」
お互いがぎこちない挨拶から始まった。
一哉は、健司に対して、事の経緯を話した。
健司は黙って聞いていたが、やがて小さく頷くと口を開いた。