やっぱすっきゃねん!Ulast-19
「何やってんだ!それがオマエの精一杯か!そんな程度かぁ」
(…クソッ、言わせておけば…)
特訓というよりも、2人の真剣勝負。
永井も葛城も、行く末を見つめるだけだった。
「…あれって、姉ちゃんに藤野コーチじゃ…」
校門からグランドに向かう道。現れたのは修だった。
練習時間はとっくに過ぎたのに、帰って来ないので心配で見に来たのだ。
「ホラッ…行くぞ!次ィ」
速い打球が佳代目掛けて飛ぶ。
バウンドはイレギュラーし、マスクをふっ飛ばした。
「痛…!」
身体が反応して後に飛ばされる。
「当たる度に倒れるな!さっと立て!あと50球だ」
「…ふっ…うっ…」
佳代が起き上がった。
その時、佳代の耳から音が消えた。先程まで近くを通るクルマや一哉の怒号が消え、静寂に変わった。
それは音だけでは無かった。照明に照らされたグランドの風景は消え、一哉との間だけが昼間のように明るくなって見えた。
(…ほう……)
佳代を見た一哉は笑みを見せる。
「コーチ!待って!それ以上やったら、姉ちゃんが……」
その時、一哉の元に修が走り込んで来た。
その目は真っ赤になっている。
だが、一哉は穏やかな表情を修に向けると佳代を指差した。
「…修。心配しないでよく見てみろ」
修はおそるおそるバックネット側を見た。
そこには、低い構えで待つ佳代がいた。
今にも獲物に飛び掛からんとする獣のような目で、白球を待っていた。
「オレは待っていたんだ。アイツが…あの目になるのをな…」
一哉の瞳には喜びが溢れていた。