やっぱすっきゃねん!Ulast-17
「いくらコーチだからって許せません…私は去年の夏から、必死にやってきました。それで使ってもらえないなんて、信じられません!」
「オレはオマエが中学生になり、野球部に入る時に訊いたハズだ。
〈3年間、控えでも構わないのか?〉と。
その時、オマエは言ったな。〈それでも構わない〉と…」
「確かに言いました。でも、それは私の力が負けてる場合です。
でも、私は負けてるとは思えません」
「つまりオレの選択が間違っていると?」
冷静だった一哉の目が、熱を帯てきた。
「藤野さん。もう……」
葛城が何か言おうとしたが、一哉の右手に遮られた。
「…ちょっとの間に、ずいぶんナメた口を利くようになったな」
一哉は鋭い眼光で佳代を睨め付ける。
佳代もたじろぎつつ、視線を逸さない。事無く時間だけが流れる。
先に言葉を発したのは一哉だった。
「佳代。オマエは必死にやってきたと言ったが、オレに言わせれば、あんなモノは〈練習のための練習だ。たいした事ない。
どうだ?オレと勝負しないか」
「…勝負…ですか?」
「ああ。オマエと同じ歳の頃のオレとだ。
オレが受けた練習、もし、オマエがやり遂げたらライトのレギュラーをやるよ」
一哉の条件に、佳代は固唾を飲み込んだ。
「…分かりました。やります!」
「ヨシッ。グランドに出てキャッチャーの装備を着けろ」
一哉と佳代はグランドへと向った。
その後を永井、葛城も付いて行く。
「着けたらバックネット前に立て…」
佳代に指示しながら、一哉はボールの入ったカゴとバットを持って来た。
「コーチ。準備出来ました」
「じゃあ勝負の方法を教える。やる事は簡単だ。
オレの前に置いたカゴには、ボール100個が入ってる。
今からノックをするから、捕ったらオマエの横に置いた空カゴに入れろ。
そして、いっぱいになったらカゴを入れ替えるんだ。
これを500球続けられれば、お前の勝ちだ」
(ご…500球って…)
今まで100球しか捕った事の無い佳代にとって、あまりに未知の数だった。
照明灯の明かりが灯る。
「いいか。佳代」
「お願いします!」
腰を落とし、身構える佳代。深く息を吐いた。