やっぱすっきゃねん!Ulast-12
「まったく良いところがなかった。ずっとコーチにダメ出しされて…」
「でも、稲森とのシート打撃以来だろ。まだ感覚が掴めてないのさ…」
練習後の帰り。久しぶりのバッティング練習の結果に落ち込む佳代。
「オレも投げ方を矯正された…」
それは直也が遠投をやってる時だった。
「オマエ、何でそんなに前でリリースするんだ?」
「エッ?」
直也は一哉の問いかけに面喰った。
彼にしてみれば、身体より前でボールを離す方が、よりバックスピンが効いて良いと思っていたからだ。
「オマエは兄貴のように投げたいと思ってるだろうが、それは無理だ」
「何故ですか?」
「兄貴の信也は背も高く手足が長い。
だが、オマエは背も手足も普通だ。そんなオマエが信也の真似すれば、間違いなく肩やヒジを痛める」
「…じゃあ、オレには兄貴みたいにバックスピンの効いたボールは無理なんですか?」
直也は必死に喰い下がる 。
しかし、一哉の言葉は冷酷だった。
「無理だし、仮に覚えても打たれるな」
そう言って直也のボールを掴むと〈よく見てろ〉と言った。
「これがオマエの今までの球だ」
一哉は下手投げで軽くバックスピンを掛けて高く放った。
すると、ボールは高く弾んで遠ざかっていく。
「次はバックスピンを効かせた球だ」
同じ下手投げで、強いバックスピンを掛けた。
ボールはバウンドして一哉のそばに戻って来た。
「分かるか?」
首を振る直也。
「バックスピンの強いボールは、打たれると遠くに飛ぶ。つまり、球質が軽いんだ。
一方、回転の少ないボールは球質が重いから遠くに飛ばない。
オマエはボールのキレよりも、威力で抑えるタイプだ。
だから、投げ方を無理して変える必要は無い」
「へぇ…同じ兄弟でも違うんだ…」
直也の話に感心する佳代。
「でも、淳にはバックスピンを効かせる投げ方を教えていた。アイツ、背も手足もあるだろ」
「同じ上投げでも体格によって色々あるんだね」
直也は頷いた。
「それだけじゃなくて、正しいリリース・ポイントも教えられたんだ」
「正しいリリース・ポイント?」
直也は、立ち止まると両手を頭の後で組んだ。
「こうやって、両ヒジを肩幅にするんだ」
佳代も自転車を止めて真似てみる。